7話目 「外は空腹、中は不眠」
要領のいい若手たちが、自分のベストプレイスを探している最中。
十字軍本軍は、シリア北部の大都市、アンティオキアを目指して進軍していた。
道中、トルコ兵による徹底した焦土作戦が功を奏し、十字軍の食料はもうほとんど残っていない。飢えが兵士たちを襲い、士気は下がる一方。
「都市を落とせば、腹いっぱい食べられる」
その一心で、彼らは歩き続けた。
やがて十字軍は、アンティオキアを遠望する丘に立った。
そこで、薄々感じていた嫌な予感と、ついに正面から向き合うことになる。
アンティオキアを見た誰もが、言葉を発しなかった。
沈黙の中、誰かがぽつりと呟く。
「……これ、無理ゲーじゃね?」
アンティオキアは、400以上の監視塔と12キロにも及ぶ堅固な城壁を誇る巨城。
攻める側にとっては最悪であり、守る側にとっては理想。
疲れ切った十字軍は、その絶望的な守りの強さに衝撃を受けた。
「50メートル級の超大型巨人でも引っ張ってこなきゃ、落とせないぜ……」
一気にやる気が蒸発した(巨人なだけに)が、もう引き返せない。
だが実は、城の中も同じように焦っていた。
アンティオキア総督、ヤギ・シヤーン。
城壁の上から、遠くに見える十字軍の陣を見下ろし、頭を抱えていた。
「ああ〜……どうする? どうすればいいんだ?」
「なんなんだあの大群は? なぜよりによって、このアンティオキアなんだ……?」
彼が混乱するのも無理はない。
この時点までイスラム側は、十字軍が「宗教的動機」で動いているとはほとんど理解していなかった。
彼らの目には、十字軍は単なる「領土目的の侵略者」にしか見えていなかったのだ。
「聖地奪還? 神の命令?」そんな発想は、まだない。
「他にもっと裕福な土地があるだろう、なぜここを攻める?」ヤギ・シヤーンはそう思っていたに違いない。
ヤギ・シヤーンは決断する。
「……援軍を呼ぶしかない」
本来、頼るべきはすぐ東にある大都市アレッポ。距離も近いし軍事力も十分だ。
だが、ヤギ・シヤーンはアレッポの領主と犬猿の仲。
「あんな奴に頼るものか!」
彼は意地を張り、もっと遠くのダマスカスへ援軍を要請した。
到着は遅れる。それでもアレッポに頼りたくなかった。
こうしてアンティオキアは、自力で耐え抜くという「綱渡り」の状況に突入する。
外には、「落とせる気がしない」十字軍。
中には、「助けが来るまで持つか分からない」総督。
両者とも、すでに胃が痛い。
アンティオキア包囲戦、これにて開幕。
ここで、一人の男を紹介しよう。
司教アデマール、ドリュラエウムで活躍した戦える坊さんです。
彼は教皇ウルバヌス2世の腹心であり、教皇の意向を直接現地に伝える存在だった。十字軍の精神的リーダー。いわば「神の代言者(※異議申し立て不可)」である。
アデマールは、ただ祈るだけの人ではない。
馬に乗り、行軍に同行し、戦場の空気もちゃんと読む。「祈ればなんとかなる」とは思っていないリアリストだ。
何より重要なのが、彼の「仲介者」としての役割。
ボエモンド、ゴドフロア、サン=ジル……全員が「ほぼ王様」という、癖の強すぎる諸侯たちの間に立ち、衝突をなだめ、暴走を止める。
一言で言うと、彼は「苦労人」であり、十字軍の最強の「潤滑油」なのだ。
この男の重要性は、この後の地獄のアンティオキア包囲戦で、はっきりと証明されることになる。
つづく。




