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十字軍の話  作者: 龍閣
8/12

6話目「元坊さんの「乗っ取り術」と、イケメン騎士の「海賊スカウト」」

トルコ軍による焦土作戦。


十字軍は一滴の水のために馬の血をすするほどの地獄を味わっていました。


「このまま本隊にいても、飢え死にするだけだ」


そう考えた、賢くて、若くて、そして絶望的に野心的な二人の男がいました。彼らは「食料調達」や「偵察」というもっともらしい建前を掲げ、地獄の本隊を離れて自分たちの「居場所」を探す旅に出ます。


まずは「坊さん将軍」のボードゥアン。

彼はゴドフロアの弟で、家庭内では三男坊。


中世ヨーロッパの貴族社会では、長男が家督を継ぎ、次男以降は......まあ、頑張って自分で何とかしろ、という三男の人生ハードモードな世界でした。


こんな感じ。


長男 → 家督を継ぐ(安泰)


次男 → 軍人として仕えるか、自力で領地奪取


三男 → 教会へ(強制的に坊さんコース)


そう、ボードゥアンは幼少期から坊さん(聖職者)になるための教育を受けていました。


聖書を読み、ラテン語を学び、神に仕える準備をしていた。


でも、1080年代、「やっぱ坊さん、向いてないわ」還俗しました。


なぜかというと、

長兄がイングランドで戦功を上げたおかげで、次兄ゴドフロアがロレーヌ公になり

ボードゥアンにもヴェルダン伯の地位が転がり込んできたから。


例えれば、一番上の兄さんが自分で会社を作って独立。

2番目の兄さんが家督を継ぐ形になって、自分は権利はないが肩書をもらって一応安泰。


つまり、これだったのが


長男 → 家督を継ぐ

次男 → 軍人として仕えるか、どこかで領地を手に入れる

三男 → 教会へ


こうなった。


長男  → 独立

次男  → 家督を継ぐ

三男  →  軍人として仕えるか、どこかで領地を手に入れる


こうして、ボードゥアンは世俗の貴族として生きる道を選びました。


そして、1096年。


クレルモン公会議での教皇ウルバン二世の演説。


「デウス・ウルト!」


ボードゥアンは、兄のゴドフロワ・ド・ブイヨンと共に十字軍に参加。


ただし、道中から波乱万丈。


事件その1: ハンガリーで人質になる


1096年末、ハンガリーを通過する際、ハンガリー王コロマーン1世が言いました。


「お前ら通ってもいいけど、人質を置いていけ」


民衆十字軍が暴れまくったせいで、王は信用ゼロ。


で、誰が人質になったか。


ボードゥアン。


「お前が人質な。行ってこい」……なぜか三男が選ばれました。


数週間後、無事解放されてやっと十字軍本軍に合流。


二人目はボエモンドの甥っ子で、彼の右腕として知られる人物。

若い「アイドル将軍」のタンクレード

「野心の塊」ボエモンドと軍団を率いて第一次十字軍に参加しました。


そして彼、この時まだ20代で、さらにイケメン。


後世、詩人トルクァート・タッソの叙事詩『解放されたエルサレム』で英雄として描かれ、オペラや絵画の題材にもなった、十字軍界のスーパースター。


要するに、イケメンの血筋はやはりイケメンで、まさにアイドル将軍。


コンスタンティノープルに到着した際、アレクシオス1世は、十字軍の指導者たちに対し、征服した土地をすべて東ローマに返す誓いを立てるよう圧力をかけた時。

他の諸侯たちは、誓いを守らないつもりで適当に宣誓。


でも、タンクレードだけ「嫌です!」とこれを拒否しました。


理由は「守れない約束、したくない」でした。

若いのに、妙に真面目。


結局、叔父のボエモンに戒められて、ようやく宣誓しましたが、内心納得してなかったでしょうね。


ニカイア攻囲戦の時、城壁にビザンツの旗が立ったとき、タンクレードは特に怒っていたでしょう。「だから誓いたくなかったんだよ!」と。


話は戻り、十字軍は小アジアを進軍中。

次の大目標は、難攻不落のアンティオキア。


そんな中、二人の男が言い出した。


ボードゥアン

「食料調達に行ってきます」


タンクレード

「偵察に行ってきます」


もっともらしい理由をつけて、二人はアンティオキアに着く前に本隊を離脱。


二人が向かったのは、キリキア地方(現在のトルコ南部)。

最初は仲良く進んでいた二人でしたが、タルソスという都市を巡って事件が起きます。


タンクレードが先に落とした都市、タルソス。


「よし、ここは俺のものだ」


ボードゥアン、自軍の兵力をちらっと確認して


「いや、ここは俺が受け取ろう」


タンクレード

「は?俺が先に落としたんだ!」


ボードゥアン

「… 俺の方が兵力多いけど?」


……あれ?


お二人さん「神のため」はどこへ行った?


結局、兵力で勝るボードゥアンがタルソスを確保。


タンクレードは、不満たらたらで別の都市へ。


ここで二人は、別行動となる。


タンクレードはアンティオキア方面へ。

ボードゥアンは、さらに東へ。


タルソスよりさらに東にエデッサと言う都市があった。


そこを治めていたのは、老領主トロス。


彼はキリスト教徒だっだが、周囲はイスラム勢力だらけ。


まさに四面楚歌。


そんな中、西からやってくる十字軍の噂を聞いて。

「軍事力の後ろ盾になるかもしれない」


そう考え、ボードゥアンをエデッサに招待。


最初、トロスは思っていた。

「この男、傭兵だろう」


なので、とりあえずお金を差し出す。


すると、ボードゥアンは言った。

「お金には、興味がない」


そりゃそうだ。ついこの前、逃げたトルコ軍の本営で金銀ザックザクだったのだから。


それを見たトロスは、完全に感動してしまう。

「なんて高潔な騎士だ……」


そして、ここで爆弾発言。

「養子になってくれませんか?」


ズッキューン!


ボードゥアンの心に、見事に刺さる提案。

「……はい、喜んで!」


当地の伝統に従い、同じシャツを着て、抱擁。

古代のペアルックですね、はい。


こうして正式に、養子成立。


1ヶ月後、エデッサで住民暴動が発生、暴動の中、トロスが殺害された。


ボードゥアンは仕方なく(••••)エデッサの領主を受け継いだ。

仕方なく?仕方なく〜??


こうして、エデッサ伯ボードゥアン誕生。


…暴動のタイミング、良すぎじゃない?


このエデッサは、のちに東から迫るイスラム勢力に対する巨大な防波堤となる。


一方、タンクレードはやはり、食料は手に入らず、海からの物資提供を考えていたのか、沿岸都市を一つずつ落としながら進んでいた。


十字軍には、海軍がない。


これまで船が必要な時は、全部ビザンツ皇帝頼み。

食料や物資を約束したにもかかわらず、全然間に合っていない。

あの皇帝、全然信用できない。


そんな時、ある港で出会った、海賊団のリーダー、グインメル。


タンクレードは、彼らの船を見て思った。

(……使える、この船を使って、キプロス島や他の場所から物資提供が期待できる!)


さらに沿岸攻略には、どう考えても必須。


(もし、こいつらを傘下に置けたら海軍の問題は、一気に解決する。)


そう考えたタンクレードは、神の名を持ち出す。


タンクレード

「俺たちは神のために戦っている、もしついてくると言うのならば、神はお前たちの犯した罪を許すだろう。」


グインメル

「お前についていったら、俺たちも免罪されるん?」


タンクレード

「ああ。神のために戦えばな」


グインメル

「天国、行けるん?」


タンクレード

「……ああ」


グインメル

「よっしゃー!今日から俺たち、あんたについてく!」


タンクレード

「……いいだろう。ただし、ルールは守れ」


グインメル

「略奪し放題だな!」


タンクレード

「守れって言ってるだろ!」


こうして、偶然なのか、必然なのか。


二人の若い将軍のおかげで、十字軍は気づ かないうちに二つの力を手に入れていた。


一つは、ボードゥアンのエデッサの「守り」の力。

もう一つは、タンクレードと海賊の「海」の力。



つづく。

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