表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十字軍の話  作者: 龍閣
7/10

5話目 「またお前かよ、アルスラーン」

十字軍は一つ学んだ。

「アレクシオスは、息を吸うように嘘をつく」

それでも、道案内と補給のために、今はまだ皇帝と手を切るわけにはいかない。

「……我慢だ。今はな」


彼らは二隊に分かれ、荒野を進んだ。

前軍を率いるのは、南イタリアのモテ男、ボエモンド。


次の目的地は、ドリュラエウム。


1097年7月。

ドリュラエウム近郊。照りつける日差しが、体力を削っていく。


谷に差しかかったところで、ボエモンドは野営準備のため

隊を止め、陣形を整えさせた。


だが、ここには、待ち伏せがあった。


両側の丘に、静かに潜む影。


その中心にいたのは、再び現れたあの男、アルスラーン。


「今度こそだ!突撃!」


合図と同時に、谷の両側から矢が降り注ぐ。

雨のように。いや、嵐のように。


「妻を返せー!」


叫んだかどうかは分からない、だが、その怒りは本物だった。


奇襲。

普通なら崩れる。

だが、ボエモンドは違った。


戦場で生きてきた男は、一瞬で状況を理解する。

「まず、守れ! 非戦闘員を中央へ!」


巡礼者、聖職者、病人、負傷者を守ように騎士たちは馬を降り、盾を並べて「壁」になった。


降り注ぐ矢の雨の中で、キャンプの女性たちは必死に水を運び、男たちを励まし続けた「天国行きたい」と言っていた彼女たちも、今は生きるために必死です。


ボエモンドは軍を三つに分け、各方面で陣形を維持し、持ちこたえる。


そして、矢の雨の中でアルスラーンに向かって

「お前の妻と子どもは、アレクシオスのところだぞー!俺たちは関係ねー!」って力いっぱい叫んだかもしれない。


だが現実は厳しい。


矢が突き刺さり、軽装の歩兵たちが次々と地面に倒れていく。


矢は馬にも突き刺さり、「ヒヒーン!」という悲鳴とともに、馬が崩れ落ちる。


乗っていた騎士たちは勢いよく宙に投げ出され、地面に叩きつけられた。


そこへ、トルコ軍の騎馬隊がなだれ込む。


重装の騎士たちも、身動きが取れなくなる。


兵士たちは混乱する。


「やばい……俺たちこのまま死んだら、天国行けないぞ!」


ボエモンドは顔色が変わる。


「……これは、本気でやばい」


ボエモンド軍がもう崩壊しようとした、その時。


「もう大丈夫だ!なぜなら、私が来た!」


……という声が聞こえたかどうかは別として。


現れたのは、ロレーヌ公ゴドフロア。


ボエモンド、大歓喜。


「ゴドフロア!来てくれたか! 今日から兄弟だ!」

「……って、お前、その人数だけなん?!」


そう。ゴドフロア、友軍の危機に駆けつけたが、連れてきたのは、わずか50騎前後(諸説あり)。


...いやまじで何しに来た?


谷の上から下へ攻撃するトルコ軍。

谷の底から、必死に耐える十字軍。


次々と兵を投入するトルコ軍。


「もうすぐ終わりだ!」


実はトルコ軍、十字軍がこの軍隊だけだと思い込み、後を残さず全軍突入。

これが、致命的な誤算だった。


「ドドドッ」と背後から、地響きのような音。


サン=ジル率いる第二軍、到着。


「ワシの仲間は、絶対に殺させない!」


重装歩兵が前に出る。


鎖かたびらの上に鉄製の兜、分厚い盾。手には長槍、あるいは長剣。

防御も、攻撃も、全振り。


まるで人間戦車。


彼らが、軽装歩兵を囲むように前進する。


矢は、弾かれる。近づけば、串刺し。


機動力と弓矢が主力のトルコ軍では、この壁を突破できない。


トルコ軍が「正面の敵」に気を取られている隙に、山の裏側を迂回して現れた影があった。


戦える聖職者アデマール司教であった。


彼が誰だって?今は戦える坊さんとだけ覚えてください。


片手に十字架、片手に槍。この坊さん、誰よりも好戦的にアルスラーンの本陣を背後から強襲しました。


動揺したトルコ兵は、崩れ、逃げ出す。


アルスラーンは、歯を食いしばりながら、またしても敗走。。


「妻よ……すまん。待っててくれ!」


背後から、ボエモンドの声が飛ぶ。


「だからお前の嫁、アレクシオスのとこだって!」


逃げたトルコ軍を追い、十字軍は敵の本営へ入った。


そこで目にした光景に、誰もが息をのむ。


金、銀、財宝。ザックザク!


馬車に山積みの物資、食料も、わんさか。


遠征開始以来、初めての大収穫。


兵士たちは、ようやく笑った。


「……来てよかったな」


この一戦で、トルコ軍ははっきり悟った。


正面衝突は、無理だ。


西ヨーロッパの重装備軍は鎧に身を包み、正面から押し潰してくる力バカな連中。


あれに真正面から当たるのは、自殺行為。


「正面衝突はNG...勝てない戦いは、しない」


彼らは、戦い方を変えた。


やることは、単純。


徹底的な嫌がらせ。


進軍する十字軍に対し、「スッ」と現れて、矢を一、二発。

反撃される前に「サッ」と消える。


追えば、いない。止まれば、また出てくる。


これを、何日も、何週間も、繰り返す。徹底的なゲリラ戦略であった。


そして、本命は焦土作戦。


井戸という井戸を、埋める。

貯水槽には、毒を入れる。


村に着けば、誰もいない。


家もあるし畑もある。

でも、人も、食料も、何もない。


完全なゴーストタウン。


十字軍に、一滴の水も、一粒の穀物も残さない。


進軍中の十字軍、最初は、気づかない。


「まあ、次の村があるだろう」


だが、それが続く。


水がない。食料がない。


勝ったはずの軍が、剣でも、矢でもなく喉の渇きと、空腹でじわじわ削られていく。


この戦法は、確実に、効き始めていた。


つづく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ