4話目「皇帝アレクシオスの姑息なハメ技」
さて、諸侯たちがしぶしぶ忠誠書に署名した次第。
アレクシオス皇帝は、遠征に必要な食料と海を渡る船を約束し、彼らを見送りました。
内心「早く行ってくれ、二度と戻ってくるなよ」と思っていたかは定かではありません。
1097年5月。
十字軍はボスポラス海峡を渡り、ついに小アジアへ足を踏み入れました。
最初の目的地はニカイア。
エルサレムを奪還しようとするならば、地理的に絶対キリスト教領土として確保しなければならない街でした。
「ここを落とさなきゃ背中が心配(帰れない)」
そんな共通認識だけは、バラバラな諸侯たちの間で一致していました。
十字軍はニカイアを包囲。力攻めではなく、水源を封鎖して兵糧攻めを行うことにしました。
ニカイアはもともとビザンツ帝国の都市だった。
だが今はセルジューク朝に奪われ、首都になっていました。
その支配者――
若きスルタン、キリジ・アルスラーン1世。
はい、その通り、彼があの「アルスラーン戦記」の主人公のモデルになった人物ですね。
ところが、この肝心の男。
ニカイアにはいなかった。
彼は別の場所で戦闘中だった。
知らせが来た時、
彼はあまり気にしなかった。
理由?
数か月前、
似たような連中が来たのを覚えている。
民衆十字軍という烏合の衆をボコボコにしたばかり。
なので、
十字軍再来の報を聞いても、
「どうせまた、バカな皇帝アレクシオスが送りつけた
役に立たない傭兵だろ」
と、完全にナメていました。
ところが――
自分の領地へ戻る途中、
アルスラーンが目にしたのは、
重装備の十字軍に囲まれたニカイア。
「…え?ガチなやつ?」
しかも城の中には、妊娠中の奥さん。
これはもう、
「俺の女に手ぇ出させねぇ!!」――って叫んだかどうかは不明ですが、
全力で突っ込んだ!
アルスラーン、
約1万の騎馬隊で突撃。
「うおおお!」
迎え撃つのは、
まずレーモン・ド・サン=ジル軍。
ドーン!!
両軍がぶつかり合い、
サン=ジル軍苦戦。
「あ、けっこうキツい!」
そこに――
「遅れた!」
ゴドフロワ軍参戦。
「俺もいるぞ!」
ボエモンド軍参戦。
数と装備、
そして連携の差が、効いてくる。
アルスラーン苦戦!
「無理無理無理!」
激闘の末、
「妻、ごめーん、必ず助けに来るからな〜!」って叫んだかもしれない。
アルスラーン逃亡。
城の中に落ちるもの
このニカイア周辺での戦い。
結果は十字軍の勝利でした。
戦場を片付ける中で、十字軍
討ち取った敵兵の首を、城内へ投げ込みます。
十字軍:
「こいつらの首、どうする?」
「投げとく?」
「城の中に?」
「うん」
――ドサッ。
城内の人たち:
「……え?」
「今、首飛んできたよね?」
城の中から見れば、
状況は最悪だった。
領主は敗れて逃亡。
味方の首が、次々と落ちてくる。
――精神的ダメージ、最大。
瞬く間に戦意喪失。
陥落は、時間の問題でした。
負傷者の手当ても終わり、そろそろニカイアの戦意ももう尽きる頃。
総攻撃の準備をしていた十字軍。
「よし、もうすぐ落ちるぞ!」
「略奪の時間だ!」
「金!女!メシ!」
十字軍が下卑た笑いを浮かべ、総攻撃の準備を整えたその瞬間。
ニカイアの城壁に、するり、と一つの旗が掲げられました。
ビザンツ帝国の旗。
「……え?」
十字軍、全員フリーズ。
そう、皇帝、裏でやってました。
アレクシオス1世、この戦いをずっと監視していました。
そして、城が限界に近づいたタイミングで、こっそり使者を送ります。
「今なら命は助けるよ。ビザンツに降伏しな?」
交渉は、十字軍の知らぬところで成立していた。
つまり。
十字軍が血を流し、城を追い詰めている間に、ビザンツ帝国が静かに成果を横取りしたのです。
当然、十字軍はブチギレ
「ふざけんな!!」
「俺たちが戦ったんだぞ!」
「略奪できねぇじゃねぇか!」
だが、皇帝は一枚の紙を差し出す。
「はい、忠誠書」
「……」
「読んだ?」
「……」
「取り戻した土地は、うちのだよね?」
「……」
「それに略奪禁止。ここ、元々うちの街だから」
「……」
何も言い返せない…約束、してた(されてた)。
ニカイア奪還戦、アレクシオス1世にとっては、完璧な結果だった。
戦闘は十字軍任せ。
領土回復。
自軍の損失ゼロ。
効率、最高!
しかし、十字軍側の感想は一つ。
「この皇帝、やり方が汚ねぇ!!」
こうして、十字軍とビザンツ帝国の関係は一直線に悪化します。
「もうあいつは信用しない!」十字軍、そんな思い出さらに内陸、荒野のアナトリアへと突き進んでいきます。
しかし、そこには「横取り」よりもさらに残酷な現実が待っていました。
復讐に燃えるアルスラーンの再来、そして、彼らをじわじわと追い詰める「水一滴すらない地獄」。
プロの騎士たちが、ついに悶え苦しむことになります。
つづく。




