3話目 「皇帝の憂鬱。助けを呼んだら『昔いじめてきた奴』が来た」
「待てない男」隠者ピエールが、烏合の衆を引き連れて東へ、東へと突っ走っていたそのほぼ同時刻。
ちゃんとした貴族たちは、ちゃんとした十字軍を準備していました。
ただ、十字軍は国王の命令で動く正規軍ではありません。
あくまで、自発的な「巡礼」です。
なので、資金、兵、食料、武器、すべて自腹。
当然、土地と金と部下を持つ貴族が主役になります。
ここで登場するのが、十字軍を率いた「七人の主要諸侯」。
キャラ、濃いです。
① ユーグ(ヴェルマンドワ伯)
フランス王の弟。本来なら王が行くべきですが、兄は女絡みのスキャンダルで教皇から破門中。
「お前、俺の代わりに行ってこい。兵? 知らん、自分でなんとかしろ」と押し出された苦労人。態度はデカいが、中身(野心と兵)はカラッポ。
② ロベール(ノルマンディ公)
通称、金欠のロベール。政治センスもお金もゼロ。
領地を弟に担保に入れて資金を作った、「全財産全ツッパリ」のローン参加者。
③ エティエンヌ(ブロワ伯)
金持ち。ただし、やる気は薄め。
最大の特徴は――奥さんがめちゃくちゃ怖い。
後に一度途中で帰国して、奥さんにガチ説教されて戦場に追い返される悲劇の夫。
④ ロベール(フランドル伯)
やり手のロベール。資金、精鋭兵、判断力を兼ね備えた「ちゃんとした貴族」の代表格。
⑤ レーモン・ド・サン=ジル(トゥールーズ伯)
軍事経験豊富なベテラン。とにかく金持ちで兵も最大級。
ただし、短気で意地っ張りなため、同僚にも部下にも絶望的に人望がない。
⑥ ゴドフロワ・ド・ブイヨン(ロレーヌ公)
参加理由が、よく分からない男。本来は教皇の敵側にいたはずなのに、なぜか参加。歴史の謎担当。
⑦ ボエモンド(プーリア公)
ハンサムで長身、戦場育ちのモテ男。
ですが、ビザンツ皇帝アレクシオス1世からすれば、数年前まで自分の国を侵略しようと暴れ回っていた「ガチの宿敵」。
皇帝からすれば、泥棒を追い出すために「元強盗」に助けを求めたようなものです。
この中で覚えるのは、⑤サン=ジル、⑥ゴドフロワ、⑦ボエモンドの三人だけでいいです。他は一括りに「その他諸侯」でOK!
彼らは各々兵を引き連れ、ビザンツ帝国の首都コンスタンティノープルへと到着します。
民衆十字軍と違って、今度はちゃんと編成されたプロの軍隊が次々に到着します。
装備も統率もある。略奪も、今のところはない。
……が。
それを見た皇帝アレクシオス1世は、むしろ憂鬱になります。
「こいつら……下手したら、イスラム勢力より厄介じゃないか?しかもあいつ、何度かうちに攻め込んできた奴だよな?!」
味方だけど、一歩間違えれば国を滅ぼされる「超・危険物」。
そこで皇帝が思いついたのが、「忠誠宣誓」というハメ技でした。
ロジックはシンプル。
「俺に忠誠を誓わせる」=「君たちは俺の配下」=「奪還した土地は全部ビザンツ帝国のもの」
完璧です。
皇帝はにっこり笑って要求を出します。
「いいか、君たち。奪還した土地は全部返してね。あと、俺に忠誠を誓ってから海を渡ってね」
皇帝からすればごく当然の話。ところが、西の諸侯側はブチギレます。
「は? 自腹で来たんだけど。誰かの部下になる約束なんてしてないけど」
特にプライドの高い諸侯たちは、皇帝に頭を下げるのが気に入りません。
すると皇帝は、さらににっこり笑って言いました。
「じゃあ、船貸さない。」
海が渡れなければ、聖地には行けません。
西の諸侯たちは「この皇帝……めんどくさいし、疲れるな」と舌打ちしながら、しぶしぶ忠誠書に署名します。
表面上は丁寧、内心は疑心暗鬼。
握手している手で、お互いナイフを隠し持っているような気まずい関係のまま、十字軍本隊はついにアジアへと渡ります。
そこで彼らが目にしたのは、先に出発した「民衆十字軍」たちの……無惨な残骸でした。
「おいおい、本気でやばいなこれ」
プロたちがようやく戦慄する、本当の戦いが始まります。
そして、この「戦慄」を一番近くで、冷徹な目で見つめていた男がいました。
助けを呼んだはずの、ビザンツ皇帝アレクシオス1世です。
彼はこの後、命がけで戦う十字軍の背後で、歴史に残る「姑息なハメ技」を仕掛けることになります。
つづく。




