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十字軍の話  作者: 龍閣
5/12

3話目 「皇帝の憂鬱。助けを呼んだら『昔いじめてきた奴』が来た」

「待てない男」隠者ピエールが、烏合の衆を引き連れて東へ、東へと突っ走っていたそのほぼ同時刻。


ちゃんとした貴族たちは、ちゃんとした十字軍を準備していました。


ただ、十字軍は国王の命令で動く正規軍ではありません。

あくまで、自発的な「巡礼」です。

なので、資金、兵、食料、武器、すべて自腹。


当然、土地と金と部下を持つ貴族が主役になります。

ここで登場するのが、十字軍を率いた「七人の主要諸侯」。


キャラ、濃いです。


① ユーグ(ヴェルマンドワ伯)

フランス王の弟。本来なら王が行くべきですが、兄は女絡みのスキャンダルで教皇から破門中。

「お前、俺の代わりに行ってこい。兵? 知らん、自分でなんとかしろ」と押し出された苦労人。態度はデカいが、中身(野心と兵)はカラッポ。


② ロベール(ノルマンディ公)

通称、金欠のロベール。政治センスもお金もゼロ。

領地を弟に担保に入れて資金を作った、「全財産全ツッパリ」のローン参加者。


③ エティエンヌ(ブロワ伯)

金持ち。ただし、やる気は薄め。

最大の特徴は――奥さんがめちゃくちゃ怖い。

後に一度途中で帰国して、奥さんにガチ説教されて戦場に追い返される悲劇の夫。


④ ロベール(フランドル伯)

やり手のロベール。資金、精鋭兵、判断力を兼ね備えた「ちゃんとした貴族」の代表格。


⑤ レーモン・ド・サン=ジル(トゥールーズ伯)

軍事経験豊富なベテラン。とにかく金持ちで兵も最大級。

ただし、短気で意地っ張りなため、同僚にも部下にも絶望的に人望がない。


⑥ ゴドフロワ・ド・ブイヨン(ロレーヌ公)

参加理由が、よく分からない男。本来は教皇の敵側にいたはずなのに、なぜか参加。歴史の謎担当。


⑦ ボエモンド(プーリア公)

ハンサムで長身、戦場育ちのモテ男。

ですが、ビザンツ皇帝アレクシオス1世からすれば、数年前まで自分の国を侵略しようと暴れ回っていた「ガチの宿敵」。

皇帝からすれば、泥棒を追い出すために「元強盗」に助けを求めたようなものです。


この中で覚えるのは、⑤サン=ジル、⑥ゴドフロワ、⑦ボエモンドの三人だけでいいです。他は一括りに「その他諸侯」でOK!


彼らは各々兵を引き連れ、ビザンツ帝国の首都コンスタンティノープルへと到着します。


民衆十字軍と違って、今度はちゃんと編成されたプロの軍隊が次々に到着します。

装備も統率もある。略奪も、今のところはない。


……が。

それを見た皇帝アレクシオス1世は、むしろ憂鬱になります。


「こいつら……下手したら、イスラム勢力より厄介じゃないか?しかもあいつ、何度かうちに攻め込んできた奴だよな?!」



味方だけど、一歩間違えれば国を滅ぼされる「超・危険物」。

そこで皇帝が思いついたのが、「忠誠宣誓」というハメ技でした。


ロジックはシンプル。

「俺に忠誠を誓わせる」=「君たちは俺の配下」=「奪還した土地は全部ビザンツ帝国のもの」

完璧です。


皇帝はにっこり笑って要求を出します。

「いいか、君たち。奪還した土地は全部返してね。あと、俺に忠誠を誓ってから海を渡ってね」


皇帝からすればごく当然の話。ところが、西の諸侯側はブチギレます。

「は? 自腹で来たんだけど。誰かの部下になる約束なんてしてないけど」


特にプライドの高い諸侯たちは、皇帝に頭を下げるのが気に入りません。

すると皇帝は、さらににっこり笑って言いました。


「じゃあ、船貸さない。」


海が渡れなければ、聖地には行けません。

西の諸侯たちは「この皇帝……めんどくさいし、疲れるな」と舌打ちしながら、しぶしぶ忠誠書に署名します。


表面上は丁寧、内心は疑心暗鬼。

握手している手で、お互いナイフを隠し持っているような気まずい関係のまま、十字軍本隊はついにアジアへと渡ります。


そこで彼らが目にしたのは、先に出発した「民衆十字軍」たちの……無惨な残骸でした。


「おいおい、本気でやばいなこれ」

プロたちがようやく戦慄する、本当の戦いが始まります。


そして、この「戦慄」を一番近くで、冷徹な目で見つめていた男がいました。


助けを呼んだはずの、ビザンツ皇帝アレクシオス1世です。

彼はこの後、命がけで戦う十字軍の背後で、歴史に残る「姑息なハメ技」を仕掛けることになります。


つづく。

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