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十字軍の話  作者: 龍閣
2/10

プロローグ·前半 「カノッサの屈辱」

時は、十字軍が出来る20年ほど前の時代。


当時の神聖ローマ、キリスト教世界では、ガチの覇権争いが起きていました。


ローマ皇帝 VS ローマ教皇


争点は、シンプル。


「聖職者を誰が任命するか?」


いわゆる、叙任権問題です。


皇帝側は、こんな感じ。


「今日から君が司教ね。はい、任命」


一方、教会側は、こう反発。


「いやいや、神に仕える人事に、俗世の皇帝が口出しするな!聖職者のことは、神聖なる我々が決める」


完全に、正面衝突。


このときの教皇が、グレゴリウス7世。

この人、かなりの“鷹派”。


主張はド直球。


「教皇は、神の代弁者であり、俗世の皇帝より上」

「皇帝は、教皇に従え!」


今の日本で言うなら、天皇陛下が総理大臣に、


「私は神の血筋。お前、私の言うこと聞け」


と言ってる感じ。


そりゃ、揉めます。


当然、皇帝側もイラッときます。


相手は、若い皇帝、ハインリヒ4世。


ハインリヒ4世、彼が打ち出した策は「スキャンダル攻撃」。


そう、あの芸能人たちが週刊文春によく載せられるやつ。


そして、SNSなどで広がると、失脚しかねないような話を、


ハインリヒ皇帝は広めました。


「あのさ、みんな聞いて。グレゴリウス、マチルダとデキてるらしいぞ」

「聖職者として、アウトじゃね?」


週刊誌+SNS炎上コンボで教皇の信用を落として、辞めさせようとしたわけです。


これに対して、教皇は必殺技を繰り出します。


教皇

「ハインリヒ、今日から破門な」

「もう、キリスト信者じゃないから」


この破門攻撃、当時は効果超·抜群です。


なぜなら、キリスト教社会で、「破門=社会的死亡」。


即、超がつく腫れ物扱いです。


ハインリヒ4世の周囲はこうなります。


「あれ?あの人、信者じゃないよね?」

「じゃあ命令、聞かなくてよくね?」


だんだん言うことを聞かなくなる臣下たち。


皇帝の周囲から支持者が離れ、国内では、反乱の気配が強まっていきます


追い詰められたハインリヒ4世は、ついに折れて謝罪すます。


1077年。教皇の滞在するカノッサ城を訪れ、雪の中で、許しを乞う。


「ごめんなさい!デマ、流しました」

「許してください!」


三日三晩、雪の中、裸足での謝罪。


こうして、ようやく破門は解かれました。


これが後に、カノッサの屈辱と呼ばれる出来事です。


めでたし、めでたし〜。


……と、一見、教皇グレゴリウス7世の完全勝利。


ですが、この後のストーリーは、あまり知られていません。


屈辱を受けた皇帝による、大復讐劇が始まります。


破門は解かれ、皇帝の地位は守られ、


国内の反乱も鎮圧できた。


準備が整ったところで


「グレゴリウス、今度は俺の番な!」


屈辱を晴らすためにローマに軍隊を率いて進撃。


進撃の皇帝」ですね、はい。


グレゴリウス7世を追い出し、自分に都合のいい人物を


「教皇です!」


と、勝手に即位させる。


これが、「対立教皇アンチポープ」の誕生です。


結果として、グレゴリウス7世はローマを追われ、南イタリアへ逃亡。


流刑生活の末、1085年に、その生涯を終えました。


グレゴリウス7世の最期は、とても象徴的で、哲学的でもありました。


「我は正義を愛し、不義を憎んだゆえに、流刑の地で死ぬ」

(教皇が皇帝より偉い、それを信じてたから、流刑の地で死ぬ)


グリゴリウス7世は政治的敗北したものの、「教皇は皇帝より上」という考え方は、その後の中世ヨーロッパに深く定着する。


短期的には皇帝の勝利、長期的には教皇権の思想的勝利。


これが叙任権闘争の本質であります。


そして最後に、一つだけ。


物語の舞台、カノッサ城。


ここは、トスカーナ女伯、マチルダの城です。


んん?


なぜ教皇は、「不倫相手だと噂された女性の城」に、都合よく滞在していたのか?


この点について、史料は多くを語りません。


その理由は、読者の想像にお任せします。

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