プロローグ·後半 「ウルバン二世」
流刑の地で、志を曲げることなく亡くなった
グレゴリウス7世。
彼の死後、
教会に突きつけられたのが、
この問題でした。
次の教皇、どうする?
これは当時の
枢機卿(教会のお偉いさん達)
たちにとって、
かなり頭の痛いテーマだったのです。
状況が、最悪にやや近い
というのも
ローマにはすでに、
対立教皇が座っていたからです。
しかも彼の背後には、
神聖ローマ帝国皇帝
ハインリヒ4世という、
超強力な後ろ盾がついています。
一方、正統派の教皇側はどうだったか。
前任のグレゴリウス7世は、
改革思想
「教皇は皇帝より上」
という理念は正しかった。
理想も、高潔だった。
でも皇帝とガチで衝突し、
結果としてローマを追われてしまった。
ここでの枢機卿たちの本音は、
おそらくこんな感じです。
「理想は大事、でも、現実も見ないと詰むよね」
改革路線は続けたい。
ただ、次もまた
皇帝と正面衝突する教皇を選んだら、
今度こそ教会側が持たない。
つまり必要だったのは、
改革派でありながら、政治ができる人。
そこで選ばれた男
オド・ド・ラグリ。
後の、ウルバン2世です。
なぜ彼だったのか?
完璧すぎる履歴書。
オド・ド・ラグリは、
フランス貴族の出身。
経歴だけを見ると、
ほぼ満点です。
・クリュニー修道院で修行
・グレゴリウス7世の側近
・改革運動のど真ん中にいた人物
つまり、
改革派のサラブレッド。
でも、それだけじゃありません。
彼は、
外交交渉ができる。
組織を回せる。
人間関係を壊さずに調整できる。
つまりグレゴリウス7世とは対照的な性格。
理想だけを語る夢想家ではなく、
現実を見て動ける実務家でした。
要するに、
もっとハト派なやつ。
教会会議の結論は、
「この人しかいない」
でほぼ一致していたと言っていいでしょう。
ただし。
ウルバン2世の教皇生活は、
いきなり波乱万丈。
就任当初、
彼はローマに入ることすらできませんでした。
なぜなら、
対立教皇、|クレメンス3世《ハインリヒ4世の操り人形》が、
ローマを押さえていたからです。
「教皇なのに、ローマに入れない」
なかなかシュールな状態。
ウルバン2世は、
南イタリアを中心に各地を巡りながら、
支持者を集め、
教会会議を開き、
少しずつ地盤を固めていきます。
まるで、放浪する教皇。
ここで、
ウルバン2世の真価が発揮されます。
彼は、
ハインリヒ4世と対立関係を維持します。
ただし――
正面衝突は、しない。
前任者は、
皇帝とガチの喧嘩で負けて
結果として、追放された。
ウルバン2世は、
その失敗をちゃんと学んでいたのです。
彼の戦略は、
原則は曲げない。
でも、無意味な喧嘩はしない。
外堀を埋める作戦で勝利を獲得。
具体的には、こうです。
・皇帝の地盤(北イタリア・ドイツ)には深入りしない
・フランスと南イタリアで支持基盤を強化
・皇帝派司教を攻撃せず、改革派司教を増やす
現代風に例えれば、
「好きな女の子をゲットするために、
まずは彼女の周りの友達から好感度を上げる」
みたいな、ジワジワ作戦。
1095年のSOS
そんな中で届いたのが、
ビザンチン帝国
からの救援要請です。
この瞬間、
ウルバン2世の頭の中で
何かがつながった――
そう考えていいでしょう。
東西教会《ビザンツ帝国》の関係改善
教皇としてのリーダーシップの誇示
騎士たちのエネルギーの外向き誘導
一石二鳥。
いや、それ以上。
そしてこのひらめきが、
やがて、十字軍へとつながっていくのです。
※ ※ ※
ようやく全体像が見えてきましたね。
そもそも、
巨大すぎたローマ帝国は分裂し、
西の神聖ローマ帝国と
東のビザンチン帝国に分かれます。
で、この二つ。
仲、よくない。
気まずいどころか、
わりとガチで喧嘩をする関係です。
東の世界(ビザンツ帝国)
東はシンプルです。
皇帝=政治のトップ
皇帝=宗教のトップ
つまり、
会社で言うなら
社長兼CEO兼会長兼宗教法人代表。
全部一人。
西の世界(カトリック圏)
一方、西は真逆。
皇帝:政治と軍事のトップ
教皇:宗教のトップ
この二つが分かれている。
しかし
どっちが偉いかで、ずっと揉めてる。
挙げ句の果てに、
教皇はローマを追い出されて放浪中。
そんなややこしい状況の西の世界に、
ビザンツ皇帝から
「助けて!こっちマジでヤバい!」
とSOSが届いても。
神聖ローマ皇帝は、
「へぇ……大変だね(他人事)」
くらいの温度感。
(※そして行動はしない)
これを横で見ていたのが、
教皇ウルバン2世。
彼は思いました。
「敵の敵は、味方」
東は困っている。
皇帝は動かない。
なら――
教皇が動けばいいじゃない。
こうしてウルバン2世は、
東のSOSに対応する形で、
明確な政治的目的をもって
クレルモン公会議を計画します。
名目は、
「キリスト教世界の救援」。
本音は、
「皇帝を飛び越えて、人を動かす」。
プロローグ
完。




