第6話 余裕というもの
朝、家の外に出ると、空気が少し変わっているのに気づいた。
冷たいが、どこか柔らかい。
昨夜の雨が、地面に残した湿り気のせいだろう。
ユウトはまず畑へ向かった。
「……お」
思わず、声が漏れる。
土の表面を押し上げるように、かすかな緑が顔を出していた。
ほんの小さな芽。
だが、間違いなく――作物だ。
「出た、か」
膝をつき、近くで確かめる。
数は少ない。
まだ頼れるほどではない。
それでも。
「ちゃんと、育ってるな」
胸の奥で、何かがほどける感覚があった。
失敗してもおかしくなかった。
土地は痩せていたし、環境も整っているとは言えない。
それでも、芽は出た。
ユウトは立ち上がり、畑全体を見渡す。
ここが、これからの食料の基盤になる。
「……無茶は、しなくていいな」
予定していた作業を、頭の中で組み替える。
今日は畑を広げるつもりだったが、急がないことにした。
代わりに、保存の準備だ。
野草を多めに集め、乾燥させる。
塩代わりになる鉱石も、近場で見つけた。
食べられるものを、食べられる形で残す。
作業をしながら、ふと気づく。
焦りが、ない。
王都では、常に「足りない」と感じていた。
時間も、人手も、余裕も。
だが今は違う。
「今日やらなくても、死なない」
その事実が、思った以上に心を軽くしていた。
昼前、焚き火の前で簡単な食事をとる。
乾パンと野草。
昨日とほとんど同じ内容だ。
それでも、満足感がある。
理由ははっきりしていた。
明日も、同じものが食べられると分かっているからだ。
午後は、家の中を少し整えた。
道具の置き場所を決め、動線を考える。
「……生活、って感じになってきたな」
独り言が、自然と出る。
夕方、井戸の水を汲みながら、ユウトは考えた。
今は、一人だから何とかなっている。
だが、これが長く続くかと言われると、答えは違う。
怪我をしたら?
熱を出したら?
冬が来たら?
「……一人は、楽だけどな」
楽であることと、続けられることは、別だ。
日が沈むころ、畑をもう一度見に行く。
芽は、朝と変わらず、そこにあった。
それで十分だった。
夜。
焚き火の前で、ユウトは静かに息を吐く。
不安は、まだある。
問題も、山ほどある。
だが、今日一日を振り返って、はっきりと言えることがあった。
「……余裕、ってやつだな」
それは贅沢でも、怠けでもない。
長く生きるために、必要なものだ。
ユウトは火を落とし、家の中に戻る。
荒れ地での生活は、少しずつ。
だが確実に、「続けられる形」へと近づいていた。
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