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追放された生活設計士、何もない辺境で村づくりを始めます 〜ひとりで始めたはずが、気づけば人が増えていた〜  作者: 結城ヒナ


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第54話 削った手

 昼過ぎ、保存棚の前でロウが立ち尽くしていた。


「……少し、減ってます」


 エリナがすぐに確認する。


「量は?」


「規定より、少しだけ」


 ユウトは何も言わない。


 ミルナが森の縁から戻る。


「……足跡、小さい」


 四人の視線が、同時に畑の端へ向く。


 セイは、土の上に座っている。


 手に、干し肉の切れ端。


 食べかけだ。


 ロウがしゃがみ込む。


「これ、どこから取った?」


 セイは素直に指をさす。


「そこ」


 保存棚。


「お腹すいた」


 悪びれない。


 沈黙が落ちる。


 エリナが静かに言う。


「生活を削るな」


 基準の一つ。


 ロウが小さく息を吐く。


「怒りますか?」


「怒らない」


 ユウトが答える。


「でも」


 一拍。


「伝える」


 ユウトはセイの前にしゃがむ。


「ここには決まりがある」


「だめ?」


「だめじゃない」


 セイは首を傾げる。


「だめじゃないの?」


「でも、決めてから取る」


「なんで」


「削れるから」


 セイは意味が分からない顔をする。


 リオルが横に座る。


「みんなの分だから」


「みんな?」


「うん」


 セイは干し肉を見つめる。


「少しだけだよ」


「少しでも、削る」


 エリナの声は淡々としている。


 ロウが優しく言う。


「お腹すいたら、言っていいんです」


「勝手に取らない」


 セイはしばらく考え、言った。


「知らなかった」


 その言葉は真実だ。


 悪意はない。


 だが、基準は揺れた。


 ユウトは干し肉を受け取り、棚に戻す。


「今日は、分ける」


 規定量を小さく切る。


「でも、次からは聞く」


 セイは頷く。


「うん」


 午後、四人と一人で話す。


「……難しいですね」


 ロウが言う。


「子供は、基準を知らない」


「だから伝える」


 エリナは即答する。


「でも、削られました」


「少しだ」


 ユウトは言う。


「少しでも、揺れは揺れ」


 リオルが小さく言う。


「子供は、基準を試す」


「試してない」


 ユウトは首を振る。


「知らなかっただけだ」


 ミルナが短く言う。


「……教える」


 夜。


 セイは焚き火の前で言った。


「明日から、聞く」


 それだけ。


 誓いではない。


 ただの理解。


 ユウトは火を見る。


 思想は、大人同士なら言葉で通る。


 だが、子供には伝えなければならない。


 囲わない。


 だが、放置もしない。


 削られたのは、干し肉だけではない。


 基準の甘さも、少し削れた。


 火は静かに燃えている。


 余白の村は、

 今日、教育という重さを知った。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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