第52話 小さな手
その子は、一人だった。
森の手前で立ち尽くしているのを、ミルナが見つけた。
「……小さい」
焚き火の前に連れてくる。
年は七つか八つほど。
荷はない。
目だけが強い。
「どこから来た」
ユウトが聞く。
子供は少しだけ考え、言った。
「南」
ロウが息を止める。
「南の集まり?」
子供は頷く。
「止まったところ」
エリナが静かに問う。
「親は」
子供は首を振る。
「出ていった」
沈黙。
「ここに、残りたい?」
ロウが慎重に聞く。
子供は焚き火を見る。
「わからない」
正直な答えだった。
ユウトは板と紙を見る。
――生活を削るな
――止まれなくなるな
――囲うな
子供は読めない。
リオルがしゃがみ込む。
「名前は?」
「セイ」
「ここは、囲わない場所だよ」
セイは首を傾げる。
「囲わない?」
「出ていける。
でも、残ってもいい」
セイは焚き火を見つめる。
「寒い」
短い言葉。
エリナが毛布を持ってくる。
ユウトは言う。
「滞在だ」
ロウが頷く。
「定住じゃない」
ミルナが短く言う。
「……選ばせる」
夜。
セイは焚き火のそばで眠った。
誰も囲わない。
誰も誓わせない。
ただ、毛布をかける。
リオルが小さく言う。
「子供は、問いを持ち帰れない」
「まだな」
ユウトは火を見る。
「なら?」
「今は、温めるだけだ」
エリナが静かに言う。
「基準は、子供にも適用される」
「削らない」
「止まれなくならない」
「囲わない」
ロウが小さく息を吐く。
「でも、子供です」
「だからこそ」
ユウトは答える。
「囲わない」
焚き火が静かに揺れる。
余白の村は、
思想を持つ場所だった。
だが今日、
思想よりも先に、
小さな手が火にかざされた。
世代は、まだ始まったばかりだ。
火は、変わらず燃えている。
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