第51話 止まった火
南の女が三度目に現れたのは、さらに四日後だった。
前回より、足取りは軽い。
「……止まった」
焚き火の前で、そう言った。
ロウが息を吐く。
「どうやって」
「増やすのをやめた」
短い答え。
「受け入れないと決めた。
出ていく道を、ちゃんと示した」
エリナが問う。
「減ったか」
「減った」
女は頷く。
「半分は去った。
怒る人もいた」
「当然だ」
ユウトは静かに言う。
「残った人は?」
「軽くなった」
女は焚き火を見つめる。
「生活を削らなくて済んだ。
食料は安定した。
誰も、義務で縛られていない」
沈黙のあと、ロウが小さく笑う。
「痛いけど、正しかった」
「正解じゃない」
ユウトは首を振る。
「削らなかっただけだ」
女は少し考え、やがて言った。
「……羨ましかった」
「何が」
「揺れても、崩れないこと」
ミルナが短く言う。
「……迷ってる」
ロウが苦笑する。
「毎回です」
女は少し笑う。
「こっちも、迷った」
「それでいい」
エリナが言う。
「迷わない集まりは、固い」
焚き火が揺れる。
「助けてほしいとは、もう言わない」
女は続ける。
「問いは持ち帰った。
答えは、自分たちで出した」
ユウトは頷く。
「それなら十分だ」
女は立ち上がる。
「真似は続ける」
「止めない」
軽い会釈。
去っていく背中は、前よりもまっすぐだった。
夕方。
ロウがぽつりと言う。
「……証明されましたね」
「何が」
「思想が、机上じゃないって」
エリナは静かに畑を見る。
「止まれた」
ミルナが短く言う。
「……重くならなかった」
リオルは紙を見つめる。
――止まれ
――減らす勇気を持て
その下に小さく書き足す。
――痛みは、必要な時もある
ユウトは止めなかった。
夜。
焚き火はいつもどおり燃えている。
南の火も、今は安定しているだろう。
余白の村は、広がらない。
だが、揺れた火を、止めるきっかけにはなった。
救わない。
だが、見捨てない。
問いを渡す。
そして、止まる姿を見せる。
それが、この場所の強さだった。
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