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追放された生活設計士、何もない辺境で村づくりを始めます 〜ひとりで始めたはずが、気づけば人が増えていた〜  作者: 結城ヒナ


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第5話 帰る場所

 夜半、雨音で目が覚めた。


 ぽつり、ぽつりと、屋根を打つ音。

 やがてそれは、はっきりとした雨に変わっていく。


「……来たか」


 ユウトは身を起こし、天井を見上げた。

 崩れかけた屋根は、昨日布と板で塞いだばかりだ。


 雨漏りは――ない。


 ぽたぽたと水が落ちてくる気配はなく、内部は思った以上に静かだった。

 外の雨音だけが、遠くで鳴っている。


「……ちゃんと、仕事してるな」


 思わず、そう呟く。


 王都での建築は、常に時間に追われていた。

 仮でいい、最低限でいい、と急かされるばかりで、

 「ちゃんと使われるか」を考える余裕はなかった。


 だが、今は違う。


 この家は、自分が使う。

 自分が雨をしのぎ、眠る場所だ。


 だからこそ、手を抜かなかった。


 ユウトは再び横になり、雨音に耳を澄ませた。

 不思議と、不安はない。


 むしろ――


「悪くないな」


 そう思えた。


 翌朝。

 雨は上がり、地面はしっとりと湿っている。


 畑に向かうと、土は崩れておらず、水は溝にうまく流れていた。

 昨日作った排水が、きちんと機能している。


「よし」


 小さく拳を握る。


 芽は、まだ出ていない。

 だが、それでいい。


 今日は、家をもう少し「住める形」にする日だ。


 ユウトは周囲から木材を集め、床代わりになる板を並べた。

 地面に直接寝るより、はるかに楽になる。


 壁の隙間を草と土で埋め、風の通り道を塞ぐ。

 見た目は相変わらずだが、内側は随分と落ち着いた。


 昼前、作業を終えて中に座り込む。


「……家、だな」


 小さい。

 粗末だ。

 だが、雨が降っても、風が吹いても、ここにいれば大丈夫だ。


 外で何が起きても、戻ってこられる場所。


 その事実が、胸の奥をじんわりと温めた。


 昼食は、焚き火で温めた保存食。

 簡素だが、屋根の下で食べるだけで、昨日までとは違う。


 午後は、家の周囲を整えた。

 踏み固め、ぬかるみを避けるために石を敷く。


 気がつけば、家の前に小さな空間ができていた。


「……ここに、腰掛けでも作るか」


 自分の言葉に、少し驚く。


 生活を「最低限」で済ませるつもりだったはずだ。

 だが、気づけば、快適さを考えている。


 それが悪いとは、思わなかった。


 夕方、作業を終えて家の前に座る。

 西日が荒れ地を照らし、影が長く伸びる。


 畑。

 井戸。

 そして、この家。


 どれも小さい。

 だが、確かに「自分が作ったもの」だ。


「……帰ってきた、って言っていいな」


 誰に聞かせるでもなく、そう呟く。


 夜。

 焚き火の火を落とし、家の中で横になる。


 外の音は、昨日までと同じはずなのに、感じ方が違う。

 ここには、守る壁がある。


 ユウトは目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。


 荒れ地の中に、ひとつ。

 確かな「帰る場所」が生まれていた。


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