第47話 似た火
それは噂から始まった。
「南の分かれ道に、小さな集まりができてる」
水を求めに来た商人が、何気なく言った。
「囲わないらしい」
ロウが顔を上げる。
「囲わない?」
「泊まりは日帰り。
食料は基準あり。
勝手に“余白式”って呼ばれてる」
エリナが静かに問い返す。
「誰が始めた」
「知らん。ただ、ここを見た者らしい」
商人は肩をすくめ、水を受け取って去った。
焚き火の前に沈黙が落ちる。
「……真似された」
ロウの声は驚き半分、困惑半分。
ミルナが森の縁から言う。
「……悪くない」
エリナは板と紙を見る。
「広げてはいない」
「止めてもいない」
ユウトは火を見つめた。
「真似は、囲いじゃない」
午後、リオルが南へ少しだけ様子を見に行った。
夕方、戻ってくる。
「似てる」
「何が」
「火の置き方。
保存棚の位置。
板はないけど、口で説明してる」
「基準は?」
「完全じゃない」
リオルは少し考えて続ける。
「でも、止まれる形にしてる」
ロウが静かに笑う。
「広がってますね」
「広げてない」
エリナが言う。
「持ち帰られただけ」
ユウトは少しの間、何も言わなかった。
「困るか?」
ロウが問いかける。
「困らない」
即答だった。
「囲ってない。
命令してない。
だから責任も持たない」
ミルナが短く言う。
「……軽い」
夜、焚き火を囲む。
「真似が増えたら?」
ロウが聞く。
「増えてもいい」
ユウトは答える。
「だが、俺たちは増えない」
「違う形に変わったら?」
「それも、その場所の選択だ」
リオルは紙を見つめる。
「思想って、持ち帰れるんだね」
「物じゃないからな」
火は静かに揺れる。
南の分かれ道にも、小さな火がある。
同じ形ではない。
同じ人間でもない。
だが、似ている。
余白の村は、
広がらないまま、広がり始めた。
それは、支配でも拡張でもない。
ただ、選び方が伝わっただけだ。
火は二つに分かれても、
燃え方はそれぞれだ。
それでいいと、
ユウトは思った。
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