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追放された生活設計士、何もない辺境で村づくりを始めます 〜ひとりで始めたはずが、気づけば人が増えていた〜  作者: 結城ヒナ


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第41話 板では足りない

 板の文字が、少し増えていた。


 焚き火のそばに立てかけてある、いつもの記録板。


 ――生活を削るな

 ――止まれなくなるな

 ――選べ

 ――囲うな


 その下に、細い文字がいくつも刻まれている。


 判断の例。

 断った理由。

 受け入れた条件。


「……増えましたね」


 ロウが板を見上げる。


「必要だからな」


 ユウトはそう答えたが、板の余白はもう少なかった。


 エリナが淡々と言う。


「具体例が増えている」


「原則だけじゃ、迷うからですね」


 ロウは指で文字をなぞる。


 だが、途中で止まった。


「……これ、全部覚えてます?」


「覚えてない」


 ユウトは即答する。


「覚えるものじゃない」


「じゃあ、誰が使うんですか?」


 その問いに、少し沈黙が落ちる。


 ミルナが森の縁から言った。


「……読めない人、いる」


 三人が振り向く。


「通る人。文字、分からない」


 それは事実だった。


 基準は共有された。

 だが、言葉にできるのは今の四人だけだ。


 エリナが言う。


「文字は便利。でも、読めなければ意味がない」


「口で伝えればいい」


 ロウが言う。


「いつまで?」


 エリナの問いは、静かだった。


「今は四人。

 もし、十人になったら?」


 ユウトは板を見つめる。


 今は回る。


 だが、これは“今の人数”だからだ。


「残す形が、弱いな」


 ぽつりと呟く。


 午後、通り道に一人の少年が立っていた。


 年の頃は十五ほど。

 荷は軽い。

 目は、周囲を観察している。


「ここが、余白の村?」


 声は落ち着いている。


「そう呼ばれている」


 ロウが答える。


 少年は板を見る。


「文字、刻んでるんだ」


「読めるのか?」


「少しは」


 少年は近づき、板を眺める。


「原則と、例外が混ざってる」


 エリナが眉を上げる。


「分かるの?」


「分かるよ。

 でもこれ、読めない人は困る」


 ロウが苦笑する。


「さっき同じ話をしてました」


 少年は肩をすくめる。


「なら、書き直せば?」


「どうやって」


「整理する」


 当然のように言う。


 ユウトは少年を観察する。


「名前は?」


「リオル」


「行き先は?」


「決めてない」


 迷いのない答えだった。


「滞在したいか?」


 少年は少し考える。


「条件次第」


 ロウが小さく笑う。


「選ぶんだ」


「囲われたくない」


 その言葉に、四人は一瞬だけ視線を交わす。


 ユウトが静かに言う。


「泊まりは日帰りだ」


「分かってる」


 リオルは板を見つめたまま言う。


「でも、整理くらいはできる」


 夕方、焚き火のそばで少年は板を写していた。


 文字は丁寧で、読みやすい。


「これは原則。

 これは例外。

 これは判断の理由」


 独り言のように分けていく。


 ロウが小声で言う。


「……必要ですね」


「ええ」


 エリナも頷く。


「言葉は残る。

 でも整理されなければ、重くなる」


 夜。


 焚き火の光の中で、リオルは板を見つめる。


「ここ、面白いね」


「何が」


「決めてるけど、縛ってない」


 ユウトは少しだけ笑った。


「それを残したい」


 リオルは顔を上げる。


「滞在は日帰りだよね?」


「ああ」


「じゃあ、明日も来る」


 当然のように言う。


「囲われないなら」


 ミルナが短く呟く。


「……軽い」


 板の余白は、ほとんどなくなっていた。


 だが、その横に、新しい紙が置かれている。


 余白の村は、

 今日、初めて“記録する者”を迎えた。


 まだ定住ではない。


 だが、未来に向けた種は、確かに蒔かれた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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