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追放された生活設計士、何もない辺境で村づくりを始めます 〜ひとりで始めたはずが、気づけば人が増えていた〜  作者: 結城ヒナ


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第37話 言葉にする

 朝の焚き火は、いつもより静かだった。


 昨日の話が、まだ残っている。


「基準を残すって言いましたけど」


 ロウが慎重に切り出す。


「どこまで、決めるんですか?」


 ユウトはすぐには答えなかった。


 エリナが先に言う。


「全部は無理」


「なぜ?」


「状況は変わるから」


 それは事実だった。


 雨が続けば判断は変わる。

 人数が増えれば基準も揺れる。


「じゃあ、何を残す?」


 ユウトは板を持ち出す。


 昨日刻んだ四つの言葉。


 ――生活を削るな

 ――止まれなくなるな

 ――選べ

 ――囲うな


「これは原則だ」


「原則?」


 ロウが繰り返す。


「細かい手順は残さない」


 ユウトは続ける。


「数字や配置は変わる。

 だが、この四つは変わらない」


 エリナが頷く。


「判断の軸」


「そうだ」


 ミルナが火を見つめながら言う。


「……でも、迷う」


「迷うな」


 ユウトは否定しない。


「迷っていい」


 三人が顔を上げる。


「迷わなくなったら、基準はただの命令になる」


 ロウが小さく息を吐く。


「考え続ける、ってことですね」


「そうだ」


 午前中、畑の作業をしながら、ロウが試しに言う。


「じゃあ、仮に」


「仮に?」


「食料が倍になったら、定住を受け入れますか?」


 エリナは即答しない。


「倍になった理由による」


「例えば、偶然の豊作」


「偶然は続かない」


 ユウトが補足する。


「止まれなくなる可能性があるなら、受け入れない」


 ロウは頷く。


「じゃあ、技術が増えたら?」


「生活が削られないなら、検討する」


 会話は、議論というより確認だった。


 夕方、焚き火を囲む。


「……言葉にすると」


 ロウが言う。


「少し楽ですね」


「なぜ?」


「基準が、ユウトさんの中だけじゃないって分かるから」


 エリナも小さく頷く。


「依存が減る」


 ミルナが短く言う。


「……軽い」


 ユウトは火を見つめる。


 これまで、判断は自然に共有されていた。


 だが、それは感覚だった。


 今は違う。


 言葉になった。


「村ってさ」


 ロウがぽつりと呟く。


「建物の数じゃないんですね」


「違うな」


 ユウトは静かに答える。


「判断を、誰か一人に預けない場所だ」


 火が揺れる。


 今日、新しい建物は増えていない。


 畑も、保存棚も、変わらない。


 だが、見えない部分が変わった。


 余白の村は、

 “雰囲気で回る場所”から、

 “言葉で続く場所”へと、一歩進んだ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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