第36話 いない日の想定
朝、焚き火に火を入れながら、ユウトは何気なく言った。
「もし俺が、三日いなかったら」
ロウの手が止まる。
「……どこへ?」
「仮の話だ」
エリナは畑から振り返る。
「理由は?」
「特にない。怪我でもいいし、外出でもいい」
ミルナは森の縁からじっと見ている。
ロウが苦笑する。
「急ですね」
「急に起きるのが、普通だ」
静かな言葉だった。
エリナは即座に答える。
「三日なら回る」
「判断は?」
「数値範囲内なら問題ない」
ロウは少し考える。
「……でも、誰かが線を越えようとしたら?」
「越えさせない」
エリナの声は揺らがない。
ユウトは首を振る。
「俺の基準を、覚えているか?」
沈黙が落ちる。
焚き火の音だけが小さく弾ける。
「生活を削る取引はしない」
ロウが答える。
「止まれなくなる増やし方はしない」
エリナが続ける。
「選ぶけど、囲い込まない」
ミルナが短く言う。
ユウトは頷いた。
「じゃあ、回るな」
それだけの確認だった。
だが、空気は少しだけ重い。
午後、ロウがぽつりと言った。
「……いない前提で考えると、少し怖いですね」
「依存している証拠」
エリナは淡々と返す。
「依存は、壊れる」
その言葉に、ロウは苦笑する。
「冷静ですね」
「現実です」
夕方、畑の余白に三人が立つ。
「決めるのは、誰?」
ロウが聞く。
「決めない」
ユウトは即答する。
「基準だけ残す」
エリナがゆっくり頷く。
「基準を、共有する」
ミルナが言う。
「……言葉にする」
夜、焚き火を囲む。
ユウトは板を持ち出す。
そこに、これまで刻んできた記録の横に、短い文を追加する。
――生活を削るな
――止まれなくなるな
――選べ
――囲うな
「俺がいなくても」
ユウトは火を見つめる。
「この四つが守られていれば、村は壊れない」
ロウは静かに言う。
「いない前提で整えるのって……」
「強くなる方法だ」
エリナは淡々と付け足す。
「制度の始まり」
ミルナは火を見て、ぽつりと呟く。
「……村になった」
宣言はしない。
だが、今日の話は確かに次の段階だった。
余白の村は、
誰か一人の判断で回る場所ではなくなる。
基準が共有されるとき、
初めて“続く場所”になる。
火は静かに揺れる。
ユウトはその光を見ながら、思った。
ここは、もう拠点ではない。
俺がいなくても、
残る形を持ち始めている。
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