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追放された生活設計士、何もない辺境で村づくりを始めます 〜ひとりで始めたはずが、気づけば人が増えていた〜  作者: 結城ヒナ


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第33話 見える余裕

 保存棚の位置を変えただけで、景色は少し違って見えた。


 家の前、風通しのいい場所に整然と並ぶ干し肉と保存草。


 量は変わらない。

 だが、以前より“豊か”に見える。


「……印象って、怖いですね」


 ロウが感心したように言う。


「中身は同じなのに」


「人は、全部は見ない」


 エリナは淡々と答える。


「見える部分で判断する」


 午前中、通り道を歩く者が二人、立ち止まった。


 今までは遠巻きだった。

 だが今日は、視線が少し長い。


「整ってるな」


 そんな声が聞こえた。


 近づいてはこない。

 だが、以前より距離が縮まっている。


「……効いてるな」


 ユウトは小さく呟く。


 だが、午後。


 一人の若い男が、思い切ったように近づいてきた。


「ここ、余裕あるんだろ?」


 開口一番、それだった。


 ロウが一瞬、言葉に詰まる。


「余裕、というのは?」


「見れば分かる」


 保存棚を指す。


「これだけあるなら、少し分けてくれよ」


 声は荒くない。

 だが、前提が違う。


 エリナが静かに前に出る。


「量は決まっている」


「余ってるように見えるけど?」


「見えるだけ」


 冷たい声ではない。

 だが、揺らぎもない。


 男は少し苛立ったように言う。


「選ぶ村、なんだろ?」


「そうだ」


 ユウトが答える。


「だから、今日は分けない」


 沈黙が落ちる。


 男はしばらく保存棚を見つめ、やがて舌打ちもせずに背を向けた。


「……なるほどな」


 その一言だけを残して。


 去ったあと、ロウが小さく息を吐く。


「やっぱり、誤解は出ますね」


「当然だ」


 ユウトは落ち着いている。


「見せ方を変えれば、期待も変わる」


 エリナは頷く。


「だから、基準は動かさない」


 ミルナが森の縁から言う。


「……さっきの人、怒ってない」


「怒ってない?」


「うん。試しただけ」


 その言葉に、ユウトは少し考える。


「線がどこか、確認したか」


「そう」


 それは、悪いことではなかった。


 夕方、畑の余白に風が通る。


 保存棚は、相変わらず整っている。


「戻す?」


 ロウが聞く。


「戻さない」


 ユウトは即答する。


「見せるのも、基準の一部だ」


 エリナも反対しない。


「誤解は、説明で修正できる」


 夜、焚き火を囲む。


「……安心と、安全」


 ロウがぽつりと呟く。


「両方あるのが、難しいですね」


「だから、余白がいる」


 ユウトは火を見る。


「数字にも、印象にも」


 今日、何かを失ったわけではない。


 だが一つ分かった。


 “見える余裕”は、人を引き寄せる。

 そして、試される。


 村は、ただ整うだけでは足りない。


 整えたものを、

 どう見せるかも、選び続けなければならない。


 火は静かに揺れ、

 その揺れの中で、基準は変わらず保たれていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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