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追放された生活設計士、何もない辺境で村づくりを始めます 〜ひとりで始めたはずが、気づけば人が増えていた〜  作者: 結城ヒナ


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第30話 止まる理由

 朝の作業は、滞りなく始まった。


 畑の水量は適正。

 保存棚の風通しも問題ない。

 住居予定地の整地も、予定どおり。


 だが、ユウトは気づいていた。


 全員の動きが、わずかに重い。


「……疲れてるな」


 口には出さない。

 数字にも、失敗にも、まだ表れない。


 ただ、判断の間が少し長い。


 ロウが資材を運びながら、ぽつりと言った。


「今日、やること……多いですね」


「減らすか」


 ユウトの即答に、ロウが驚いた顔をする。


「いいんですか?」


「止まらないために、止まる」


 それだけの理由だった。


 エリナは畑から視線を上げる。


「今日の作業、明日に回しても数字は崩れない」


「なら、今日は軽めだ」


 誰も反対しなかった。


 午前中は、最低限の手入れだけにする。

 水を見て、芽を確認し、保存棚を点検する。


 それ以上は、やらない。


 ミルナは森の縁で座り込み、動かなかった。


「……今日は、静か」


「そういう日だ」


 昼食も、簡単なものにする。

 量は同じだが、手間を減らした。


 焚き火を囲みながら、ロウが言う。


「……止める判断、難しいですね」


「難しい」


 ユウトは頷く。


「だが、続ける判断より大事なときがある」


 エリナは少し考え、言った。


「疲れたまま進むと、基準が緩む」


「それが、一番まずい」


 午後、誰も畑に出なかった。


 代わりに、道具の手入れをする。

 刃を研ぎ、柄を確かめる。


 作業は軽い。

 だが、気持ちは整う。


「……何も進んでない気がする」


 ロウの小さな呟きに、ユウトは首を振る。


「進んでる。ただ、前じゃないだけだ」


 夕方、畑の余白に風が通る。


 何もしなかった場所。

 だが、そこがあることで、息ができる。


 エリナが静かに言う。


「今日みたいな日を、決めておくべき」


「定期的に、か」


「ええ。数字が崩れる前に」


 夜、焚き火を囲む。


 今日は、話が少ない。

 だが、空気は悪くない。


 ミルナが火を見つめて言った。


「……止まれるの、強い」


「止まれなくなったら、終わりだ」


 ユウトの言葉は、重くもなく、軽くもなかった。


 今日、何かを増やしたわけじゃない。

 人も、建物も、評価も。


 だが、一つだけ確認できた。


 この村は、

 走り続けなくても、壊れない。


 止まる理由を、

 全員が共有できている。


 それは、

 外からの圧よりも、ずっと大切な基盤だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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