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追放された生活設計士、何もない辺境で村づくりを始めます 〜ひとりで始めたはずが、気づけば人が増えていた〜  作者: 結城ヒナ


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第28話 名前の影

 朝、畑に出たユウトは、ほんのわずかな違和感を覚えた。


 風の通り方は、昨日と同じ。

 土の湿り気も、変わらない。


 それでも。


「……見られてる、か」


 気配というほどではない。

 ただ、意識されている感覚。


 ロウも同じことを感じたらしく、家の前で首を傾げていた。


「通り道で、立ち止まる人が増えました」


「話しかけては?」


「いえ。遠巻きに見て、行くだけです」


 エリナは畑を確認しながら言う。


「名前がつくと、“場所”になる」


 淡々とした声だった。


「今までは点。今は印」


 昼前、遠くの道で二人組が立ち止まっていた。


 こちらを見て、何か話し、

 結局、近づかずに去っていく。


「……来ない」


 ロウの言葉に、ユウトは頷く。


「それでいい」


 来ない理由が、はっきりしているからだ。


 午後、ミルナが森から戻る。


「……“余白の村”、って言ってた」


「もう、定着したか」


「うん。悪い意味じゃない」


 ミルナは少し考えて、付け足す。


「……慎重な場所」


 それは、この村にとって、悪くない評価だった。


 だが、影も落ちる。


 夕方、ロウが低い声で言った。


「さっき、通りすがりに言われました」


「何を?」


「『入れなかった』って」


 エリナが即座に反応する。


「不満?」


「いえ。ただの事実みたいでした」


 それでも、“名前”がある以上、

 そこに感情は乗る。


 ユウトは一度、全員を集めた。


「ここは、変わらない」


 短く、はっきりと言う。


「名前がついても、基準は同じだ」


 ロウが頷く。


「期待されすぎないように、ですね」


「そうだ」


 期待は、管理しないと重荷になる。


 夜、焚き火を囲む。


 今日は、話すことが少ない。


「……村って」


 ロウがぽつりと呟く。


「あるだけで、誰かの希望になるんですね」


 エリナは首を振る。


「希望にしない方がいい」


「え?」


「基準にする。通過点にする」


 ユウトも頷く。


「救いにすると、壊れる」


 ミルナは火を見つめて言った。


「……影、伸びる」


「名前ができたからな」


 名前は、光も影も作る。


 だが、今はまだ小さい。


 畑の余白は、そのままだ。

 人を選ぶ基準も、変わらない。


 この場所は、名を得た。

 だが、名に引きずられるほど、柔くはない。


 今日も、人は増えなかった。

 だが、見られる距離は、少しだけ近づいていた。


 それが、次の段階の合図だった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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