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追放された生活設計士、何もない辺境で村づくりを始めます 〜ひとりで始めたはずが、気づけば人が増えていた〜  作者: 結城ヒナ


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第27話 呼ばれる名前

 翌朝、リナは一人で歩けるようになっていた。


 足取りは慎重だが、無理はしていない。

 エリナの処置が効いているのだろう。


「ここから、南に半日」


 ユウトは簡単な地図を地面に描く。


「水場は二つ。無理せず行け」


「はい」


 リナは深く頭を下げた。


「……助かりました」


「通過点だ。気にするな」


 それが、この場所の答えだった。


 リナが去ったあと、村――とはまだ呼ばないが――は、静かだった。


 畑に風が通り、

 余白の区画が、ゆっくりと乾いていく。


「……何も変わってないな」


 ロウが言う。


「変わってる」


 エリナは即答した。


「外の見え方が」


 昼過ぎ、森の向こうから声がした。


「おーい」


 聞き覚えのある、少し掠れた声。


 現れたのは、あの行商の男だった。

 今度は一人で、荷も軽い。


「水をもらいに来た」


「構わない」


 ユウトはそう答え、量を示す。


 行商は満足そうに頷き、何気なく言った。


「ここさ」


 一拍置いて、続ける。


「“余白の村”って呼ばれてるぞ」


 ロウが思わず吹き出す。


「村、なんですか」


「知らん。勝手にそう呼ばれてる」


 行商は肩をすくめた。


「人を選ぶ。泊めない。助けすぎない」


 指を折りながら数える。


「でも、水と火はある。

 断り方が、ちゃんとしてる」


 エリナは静かに聞いていた。


「……余白、ですか」


「空いてる場所がある。

 入れるかどうかは分からんが、

 追い払われるわけでもない」


 それが、外から見た評価だった。


 行商が去ったあと、しばらく沈黙が落ちる。


「……余白の村」


 ロウが呟く。


「悪くないですね」


 エリナは少し考えてから言った。


「実態に合ってる」


 ミルナは短く言う。


「……呼びやすい」


 ユウトは畑と空き地を見渡す。


 何も植えていない区画。

 何も決めていない場所。


「……名乗ってないのに、名前がついたか」


 それは、避けられない流れだった。


 夜、焚き火を囲む。


「否定、します?」


 ロウの問いに、ユウトは首を振る。


「否定しない。ただ」


 一拍置いて、続ける。


「名乗らない」


 エリナが頷く。


「呼ばれる分には、問題ない」


 ミルナは焚き火を見つめながら言った。


「……名前、重い」


「だから、背負わない」


 ユウトの言葉は、静かだった。


 この場所は、

 自分たちで看板を掲げる場所じゃない。


 呼ばれた名前が、

 そのまま残るなら、それでいい。


 今日、人は増えなかった。

 建物も増えなかった。


 だが、外の世界に、

 この場所を指す言葉が一つ、生まれた。


 ――余白の村。


 それは、

 ここが「何者かになり始めた」証だった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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