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追放された生活設計士、何もない辺境で村づくりを始めます 〜ひとりで始めたはずが、気づけば人が増えていた〜  作者: 結城ヒナ


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第25話 呼び方

 噂は、思っていたより静かに戻ってきた。


 最初にそれを持ってきたのは、ミルナだった。


「……森の向こうで、話してた」


 焚き火のそばで、短く報告する。


「人、断ったって」


「もう、広まったか」


 ユウトは驚かなかった。

 断るという行為は、受け入れるよりも目立つ。


「悪い言い方?」


「……違う」


 ミルナは少し考え、首を振る。


「『入れない場所』じゃない。

 『選ぶ場所』って」


 ロウが思わず笑った。


「ずいぶん、穏やかな噂ですね」


「意外だな」


 ユウトの言葉に、エリナが淡々と答える。


「基準が見えるからです」


「基準?」


「何でも受け入れない。

 でも、理由が分かる」


 それは、エリナなりの評価だった。


 昼前、畑の向こうから人影が見えた。


 一人。

 行商でも、流れ者でもない。


 歩き方が、慎重すぎる。


「……迷ってる」


 ロウが言う。


 ユウトは家の前に立ち、待った。


 近づいてきたのは、年配の男だった。

 背中の荷は軽い。

 目だけが、忙しく動いている。


「……ここが、噂の場所か」


 噂、という言葉に誰も反応しない。


「水を、少しだけ分けてもらえないか」


 願い出は、控えめだった。


 ユウトはすぐに答えない。


 代わりに、聞く。


「泊まるつもりは?」


「ない。日暮れまでには戻る」


「仕事は?」


「ない。ただ……」


 言葉が途切れる。


 エリナが一歩前に出る。


「理由を、聞いても?」


 男は少し迷ってから、言った。


「断られたと聞いた」


 空気が、一瞬だけ張る。


「だから、最初から頼みすぎない方がいいと思ってな」


 ロウが、静かに息を吐いた。


「……伝わり方としては、悪くないですね」


 ユウトは頷いた。


「水は分ける。量は決まってる」


「それでいい」


 男は深く頭を下げた。


 水を渡し、男が去ったあと、しばらく誰も話さなかった。


 最初に口を開いたのは、ロウだ。


「助けなかった、って思われませんか?」


「助けた」


 ユウトは即答する。


「生活を削らない範囲で」


 エリナも頷く。


「線が引いてあるから、安心できる」


 ミルナは森の方を見て、言った。


「……変な場所」


「誉め言葉だな」


 ユウトは苦笑した。


 夕方、畑の余白に風が通る。


 何も植えていない場所が、

 かえって目立つ。


「……人、来なくなるかな」


 ロウの問いに、ユウトは首を振る。


「来るさ。ただ」


 一拍置いて、続ける。


「選ぶ理由を持った人だけだ」


 それは、望んだ形だった。


 村は、呼びかけない。

 引き止めない。


 それでも、人は来る。


 この場所が、

 “何でも受け入れる場所”ではなく、

 “判断する場所”だと伝わったからだ。


 今日、名前は増えなかった。

 人も増えなかった。


 だが、呼び方が一つ、定まった。


 ――選ぶ場所。


 それは、村になる前に得るべき、

 いちばん大切な評判だった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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