第24話 余白を作る
人を断った翌朝、畑の空気はいつもと変わらなかった。
土は湿り、芽は伸びている。
何かが壊れたわけでも、失われたわけでもない。
だが、エリナの頭の中では、昨日の数字がまだ並んでいた。
「……余白が、足りない」
畑の端に立ち、区画を見渡す。
作付けは適正。
水も回っている。
それでも余裕がないのは、理由がはっきりしていた。
「人手が足りないんじゃない」
独り言のように呟く。
「伸ばし方が、単調すぎる」
そこへユウトが来た。
「考え事か」
「ええ。余裕を作る方法を」
ユウトは急かさない。
ただ、隣に立つ。
「増やす以外で、だな」
「はい」
エリナは地面に枝で線を引く。
「今は、全部“食べる前提”で作ってる」
畑を指す。
「保存はできる。でも、作付けが同じだと、事故に弱い」
「偏る、か」
「ええ。天候か、虫か、病気で一気に崩れる」
ユウトは頷く。
「じゃあ、どうする」
「分ける」
即答だった。
「成長の早いもの。遅いもの。
保存向きと、消費前提」
線が増えていく。
「全部を一度に収穫しない。
時間をずらす」
ユウトは少しだけ笑った。
「……余裕って、時間か」
「時間です」
エリナはきっぱり言う。
午前中、作業は分担された。
エリナは畑を三つの区画に分け、作付けを組み替える。
ロウは空き地の整理に回る。
「住居、増やす前提で?」
「増やさない前提で、余地を作る」
ロウは少し考え、頷いた。
「人が来ても、来なくても困らない形ですね」
「ええ」
それが、エリナの答えだった。
昼、簡単な休憩を取る。
「昨日、断ってよかったな」
ロウの言葉に、ユウトは頷く。
「あの状態で増やしてたら、焦ってた」
ミルナは焚き火のそばで言った。
「……今の方が、静か」
「静かな方が、続く」
ユウトの言葉に、誰も反論しなかった。
午後、畑の一角に空白が生まれる。
何も植えない場所。
今は、ただの土。
「……ここ、無駄?」
ロウの問いに、エリナは首を振る。
「余白。使わない選択肢」
それは、今までなかった発想だった。
夕方、全体を見渡す。
畑は少し小さく見える。
だが、不思議と安心感があった。
「……余裕が、見える」
ユウトの言葉に、エリナは小さく頷く。
「数字が、少し楽になりました」
夜、焚き火を囲む。
今日の作業は地味だった。
収穫が増えたわけでもない。
それでも、全員が感じていた。
この場所は、
“増やせる状態”ではなく、
“壊れにくい状態”に近づいている。
「村ってさ」
ロウがぽつりと言う。
「人を集める場所だと思ってました」
「違うな」
ユウトは静かに答える。
「人が来ても、来なくても困らない場所だ」
焚き火の火が、穏やかに揺れる。
今日作ったのは、畑でも家でもない。
選ばなかった“余白”だ。
だがそれは、この村にとって、
今いちばん必要なものだった。
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