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追放された生活設計士、何もない辺境で村づくりを始めます 〜ひとりで始めたはずが、気づけば人が増えていた〜  作者: 結城ヒナ


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第23話 足りない数

 畑の端から全体を見渡して、エリナは小さく息を吐いた。


「……やっぱり、足りない」


 感情ではなく、計算の結果だ。


 区画は広がった。

 作付けも整理されている。

 水の回りも悪くない。


 それでも、余裕はない。


 人数は四人。

 今の収穫量で、ぎりぎり。


 誰か一人が怪我をすれば、

 雨が続けば、

 予定が一つずれれば――すぐに崩れる。


「村、って呼ばれるには早すぎる」


 口に出すと、余計に現実味が増した。


 昼前、ロウが畑に顔を出す。


「エリナ、少し話せます?」


「今なら」


 ロウは声を落とす。


「来訪者です。二人。荷は軽い」


 エリナは、すぐに頭の中で数字を並べた。


 食料。

 保存量。

 住居。


「……泊められない」


「ですよね」


 ロウも分かっていた。


 ユウトは家の前で、来訪者と話していた。

 遠目でも分かる。

 慎重な距離感。


 エリナは畑から離れ、近づく。


 男が二人。

 どちらも疲れた顔をしている。


「ここで、仕事があると聞いた」


「泊まれる場所があるって」


 ユウトは即答しなかった。


 それを見て、エリナは一歩前に出る。


「……質問していい?」


 二人が頷く。


「農作業、できますか」


「少しは」


「保存食の管理は」


「やったことはない」


 エリナは、静かに首を振った。


「今は、余裕がない」


 冷たい言い方だったかもしれない。

 だが、事実だ。


「増えれば回る、という段階じゃない」


 二人の表情が、曇る。


 だが、ユウトはエリナを止めなかった。


 それが、答えだった。


「……分かりました」


 男たちは、深くは食い下がらなかった。

 それもまた、救いだった。


 彼らが去ったあと、ロウが小さく息を吐く。


「助かりました。僕だと、曖昧にしてた」


「曖昧は、あとで壊れる」


 エリナは淡々と答えた。


 ユウトが近づいてくる。


「冷たく言わせて悪かったな」


「必要な役割です」


 それだけで十分だった。


 午後、エリナは畑に戻り、板に数字を書き出す。


 収穫予測。

 保存可能量。

 消費速度。


「……三人なら回る。四人で限界」


 今は、綱渡りだ。


 ミルナが森の縁から声をかける。


「……来なかった?」


「来た。でも、断った」


「……正しい」


 短い評価だったが、エリナは少しだけ肩の力を抜いた。


 夕方、焚き火のそばで話し合いが始まる。


「今日、断った」


 ユウトが全員に伝える。


 誰も、責めなかった。


 エリナは言う。


「人を増やす前に、余裕を作る必要がある」


「どれくらい?」


 ロウの問いに、即答する。


「一・五倍。最低」


 ユウトは頷いた。


「それまでは、断る」


 その言葉に、迷いはなかった。


 夜。

 エリナは畑をもう一度見渡す。


 数字は、嘘をつかない。

 だが、数字だけでは、村は守れない。


「……判断できる人がいるのは、悪くない」


 それは、ユウトのことでもあり、

 自分自身のことでもあった。


 村は、増えることで成立するわけじゃない。

 増えない選択ができて、初めて形になる。


 今日は、人を増やさなかった日だ。


 それだけで、この場所は少しだけ強くなった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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