第22話 残すという仕事
塩を使う作業は、思っていたより静かだった。
派手な変化はない。
だが、手元の感覚は確実に違う。
「……匂い、抑えられる」
干し肉に塩を擦り込みながら、ロウが言う。
「虫も寄りにくい。保存棚の位置も、このままでいけそうですね」
エリナは別の場所で、野草の束を並べていた。
乾燥の度合いを確かめ、日陰と日向を使い分けている。
「水分、もう少し抜く。今は腐らないけど、長期は危ない」
「どれくらい?」
「二日。天気が崩れなければ」
数字と感覚が、無理なく一致している。
ユウトは二人の作業を見ながら、頷いた。
「保存は、作るより地味だが」
言葉を選ぶ。
「失敗すると、全部無駄になる」
ロウが苦笑した。
「宿でも、同じでした。残す仕事ほど、責任が重い」
午前中は、保存棚の改修に使った。
風の通り道を少し変え、直射日光を避ける。
作業は単純だ。
だが、判断は多い。
「……これ、全部使い切れる?」
ロウの問いに、エリナが即答する。
「今の人数なら、ぎりぎり。無駄は出ない」
「増えたら?」
「品質を揃えないと無理」
その言葉に、ユウトは一瞬だけ考え込む。
「……次は、質を見る必要があるな」
量だけを増やす段階は、もう過ぎつつある。
昼、保存食を使った食事をとる。
塩味は控えめだが、満足感は高い。
「……昨日より、腹に残る」
ロウの感想に、エリナが頷く。
「同じ量でも、効率が違う」
ミルナは焚き火のそばで、肉を一切れ齧っていた。
「……悪くない」
それが、彼女なりの評価だ。
午後、ユウトは板に新しい項目を書き足した。
――保存方法
――使用期限
――品質のばらつき
文字は少ない。
だが、意味は大きい。
「……村になると」
独り言のように、呟く。
「作るより、残す仕事が増えるな」
ロウが答える。
「でも、残せるってことは」
一拍置いて、続ける。
「余裕があるってことです」
夕方、保存棚を見上げる。
昨日より、整っている。
安心感がある。
だが同時に、責任も感じる。
「……これ、管理しないと」
ユウトの言葉に、エリナが視線を上げる。
「管理できる量に、抑えるべき」
「増やしすぎない、か」
「ええ。壊れる前に止める」
夜、焚き火を囲む。
今日は、話すことが少なかった。
だが、空気は落ち着いている。
保存棚は、ただの木組みだ。
だが、そこに並ぶ食料は、未来の時間そのものだった。
今日やったことは、派手じゃない。
だが、確実に村を“先へ”延ばした。
作るだけの場所から、
残すことができる場所へ。
その変化は、静かだったが、後戻りはできないものだった。
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