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追放された生活設計士、何もない辺境で村づくりを始めます 〜ひとりで始めたはずが、気づけば人が増えていた〜  作者: 結城ヒナ


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第17話 試しの日

 朝、焚き火の火を起こしたのは、ユウトではなかった。


 乾いた薪が組まれ、火種が残されている。

 火は小さいが、安定している。


「……早いな」


 声をかけると、ロウが振り返った。


「宿屋にいた頃の癖です。朝は火から、って」


 無駄のない手つきだった。

 慣れている。


 エリナはすでに畑に出ていた。

 芽の間隔を測り、土を指で崩している。


「……ここ、詰めすぎ」


 ユウトに気づくと、淡々と言う。


「育つ前はいい。でも、このままだと奪い合う」


「どれくらい空ける?」


「二割。今からなら間に合う」


 即答だった。


 ユウトは頷く。


「今日は“試し”だ」


 二人を見る。


「役割を決める。合わなければ変える」


 ロウは気負わずに答えた。


「了解。雑用、配給、住居。空いてるところを埋めます」


 エリナは畑から目を離さずに言う。


「私は作付けと水。数字で見る」


 宣言ではなく、確認。

 それが、この場所には合っていた。


 午前中は、それぞれが動いた。


 エリナは畑を二つに区切り、芽を間引く。

 抜いた苗は捨てず、別の区画へ。


「無駄にしない」


 ロウは家の中を整理し、道具置き場を作る。

 共有と個人の区別を、自然に分けていく。


 ミルナは森の縁で様子を見ていた。

 距離は保ったまま、介入しない。


 昼前、ユウトは一度全体を見渡した。


 動線が、昨日と違う。

 無駄が減っている。


「……助かってるな」


 思ったより、ずっと。


 昼食は簡単なものだったが、準備は早かった。

 ロウが配分を決め、誰も文句を言わない。


 エリナは食べながら、畑を見て言う。


「二人増えた分、収穫量は足りない」


「どれくらい?」


「今のままなら、秋前に詰む」


 現実的な言葉だ。


「だが、広げればいける」


「人手は?」


「三人。最低」


 ロウが頷く。


「住居も同じですね。一気に増やさないと、あとで困る」


 ユウトは息を吐いた。


「……一人でやってたら、見ないふりしてたな」


 午後、家の北側の空き地を整え始める。

 次の住居予定地だ。


 エリナは畑を拡張しながら、溝の角度を変えた。


「水、ここ流れる。雨の日に」


 ロウは資材を集め、仮の屋根材を組む。


 誰も指示を待たない。

 だが、勝手でもない。


 夕方、作業を止めたとき、地面にははっきりと変化があった。


 畑は整理され、

 空き地には基礎の目印が打たれている。


「……一日で、ここまでか」


 ユウトの言葉に、ロウが笑う。


「回せば、回るもんです」


 エリナは土を払いながら言った。


「問題は、続けられるかどうか」


 その通りだった。


 夜、焚き火を囲む。


 今日は、少しだけ火が大きい。


「試しは、どうだった?」


 ユウトの問いに、ロウが即答する。


「悪くないです。ここ、嘘がない」


 エリナは少し考えてから言う。


「数字が合う。やりがいはある」


 ミルナは、少し離れた場所から短く言った。


「……変な村」


 ユウトは苦笑した。


「まだ、村じゃない」


「でも、近い」


 その言葉に、否定はできなかった。


 今日一日で分かったことがある。


 一人で完結する生活は、もう戻らない。

 だが、それは悪い変化ではない。


「明日も、試す」


 ユウトはそう言って、焚き火の火を落とす。


 試しの日は終わった。

 だが、村になるかどうかの試しは、まだ始まったばかりだった。


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