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追放された生活設計士、何もない辺境で村づくりを始めます 〜ひとりで始めたはずが、気づけば人が増えていた〜  作者: 結城ヒナ


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第14話 残る言葉

 グスタが去ったあとも、しばらく空気は落ち着かなかった。


 風が吹き、草が揺れる。

 それだけのはずなのに、どこか視線を感じる。


「……見られたな」


 ユウトがそう言うと、ミルナは小さく頷いた。


「うん。ちゃんと」


 評価された。

 否定ではなく、観察でもなく、「理解」された。


 それが、妙に重かった。


 午後の作業は、畑の手入れだった。

 だが、ユウトの視線は、無意識に家の基礎へ向かう。


「一人じゃ足りない、か」


 グスタの言葉が、頭から離れない。


 事実だ。

 今は何とか回っているが、余裕はない。

 少し歯車が狂えば、すぐに崩れる。


 ミルナは、家の影で紐を編んでいた。

 干し肉用のものだ。


「……ユウト」


「ん?」


「さっきの人」


「グスタか?」


「うん。悪くない目」


 それは、ミルナなりの最大評価だった。


「見る人だったな」


 ユウトは畑の土をならしながら答える。


「技術だけじゃない。暮らし方を見てた」


 ミルナは少し考え込み、やがて言った。


「……そういう人、来ると」


「来ると?」


「ここ、変わる」


 否定はできなかった。


「変わるな。もう、変わり始めてる」


 沈黙が落ちる。


 遠くで鳥が鳴き、風が吹く。

 荒れ地は、相変わらず荒れ地のままだ。


 だが、意味は違ってきている。


 夕方、ユウトは家の前に座り、道具を整えた。

 刃を研ぎ、柄を確かめる。


 無意識の動作。

 考え事をするときの癖だ。


「……ここを、どうするか」


 呟きは、独り言だった。


 ミルナが隣に座る。


「ユウト、迷ってる」


「そう見えるか」


「うん。前より」


 正直だな、と苦笑する。


「一人でやる分には、楽だった」


「でも、続かない」


「……ああ」


 ミルナは空を見上げる。


「人、来る。もう」


「だろうな」


 グスタのような人間が一人来ただけで、これだ。

 噂が広がれば、次は商人か、役人か。


 良い人ばかりとは限らない。


 だが。


「来るなら、来る前提で考えた方がいい」


 それは、ユウト自身への言葉だった。


「逃げ続ける場所じゃない。ここは」


 ミルナは、その言葉を噛みしめるように聞いていた。


「……なら」


「なら?」


「ちゃんと、決める」


 短い言葉。

 だが、重みがあった。


 夜。

 焚き火を前に、二人は並んで座る。


 炎が揺れ、影が重なる。


 ユウトは火を見つめながら、ゆっくりと言った。


「ここは、もう一人で完結する場所じゃない」


 言葉にすることで、覚悟が固まっていく。


「続けるなら……人を迎える形にしないといけない」


 ミルナは頷く。


「……それが、嫌?」


「嫌じゃない。ただ」


 一拍置いて、続ける。


「中途半端が、一番よくない」


 火が、ぱちりと弾けた。


 その音を合図にするように、ユウトは立ち上がる。


「明日、決める」


「何を?」


 ミルナの問いに、ユウトは荒れ地を見渡した。


「この場所を、どういう場所にするか」


 村になるのか。

 通過点か。

 それとも、閉じた拠点か。


 選ばなければならない時が、来ていた。


 荒れ地は、静かだった。

 だがその静けさは、もう「何も起こらない」ものではない。


 何かが始まる前の、静けさだった。


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