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追放された生活設計士、何もない辺境で村づくりを始めます 〜ひとりで始めたはずが、気づけば人が増えていた〜  作者: 結城ヒナ


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第13話 見る人

 昼過ぎ、畑の向こうに人影が見えた。


 最初は、蜃気楼かと思った。

 だが、影は揺れながらも、確実にこちらへ近づいてくる。


「……人だな」


 ユウトは手を止め、距離を測る。

 武装している様子はない。

 荷を背負い、歩き方は慎重だが慣れている。


 ミルナも、森の縁から様子をうかがっていた。


「……一人」


「そうみたいだな」


 二人とも、先に動かない。

 相手がどう出るかを見る。


 やがて、人影は畑の手前で立ち止まり、周囲を見回した。

 家、井戸、畑。

 一つひとつを、注意深く。


 そして、はっきりとした声が飛んできた。


「ここで……人が暮らしてるのか?」


 ユウトは一歩前に出た。


「そうだ。今はな」


 相手は驚いたように目を見開き、それから苦笑する。


「やっぱりな。遠目に見て、そうじゃないかと思った」


 男は、荷を下ろし、両手を見せた。


「怪しい者じゃない。通りすがりの職人だ」


「職人?」


「ああ。大工だ」


 ミルナの耳が、ぴくりと動く。


 ユウトは男を観察した。

 年は四十前後。

 手はごつく、だが無駄な力が抜けている。


「……グスタだ」


 男はそう名乗った。


「王都で仕事をしてたが、今は辞めてな。流れ仕事の途中だ」


 視線が、家の壁に向かう。


「基礎……誰が打った?」


「俺だ」


 即答すると、グスタは小さく唸った。


「素人じゃないな」


 それは、評価だった。


 グスタは断りもなく、家の周りを一周する。

 壁を叩き、地面を踏み、井戸を覗き込む。


「……この条件で、よくここまで形にしたな」


 感嘆というより、納得の声。


「急いでないのが、いい」


 ユウトは答えない。

 代わりに、ミルナが口を開いた。


「……ここ、無理してない」


「だな」


 グスタはミルナを一瞥し、頷いた。


「暮らす前提で作ってる。珍しい」


 そして、ユウトを見る。


「この土地、放棄地だろ?」


「そう聞いている」


「なら、本来はもっと雑に扱われる」


 グスタは、はっきりと言った。


「だが、ここは違う」


 しばしの沈黙。


 ユウトは一つ、問いを返す。


「それで、何の用だ?」


 グスタは肩をすくめた。


「見に来ただけだ。噂でな」


「噂?」


「辺境に、変な開拓者がいるって」


 ミルナが、わずかに眉をひそめる。


「……もう?」


「早いもんだ。人の目は」


 グスタは苦笑した。


「安心しろ。今のところ、面倒を運んでくる話じゃない」


 そう言ってから、荷を背負い直す。


「俺は今日は、ここまでだ」


 歩き出しかけて、振り返る。


「忠告しておく」


「何だ?」


「この作り方をするなら……一人じゃ足りない」


 それは、昨日ユウトが考えたことと、同じだった。


「人を増やす気があるなら、ちゃんとした手が要る」


 グスタはそれだけ言い、荒れ地を後にした。


 残された二人は、しばらく黙ってその背中を見送る。


「……見る人、だったな」


 ミルナの言葉に、ユウトは頷いた。


「ああ。評価する目を持ってる」


 そして、静かに思う。


 この場所は、もう。

 “誰にも見られない場所”ではなくなりつつある。


 荒れ地は、外の世界と、細い線でつながり始めていた。


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