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後継人じゃない

過去を話すことは、

言い訳じゃない。


これからを選ぶための、

準備だ。


昼休み、

俺は秋内を誘った。


「……つばさ」


初めて、

下の名前を口にした。


喉が、

少しだけ震えた。


「お昼、

一緒に食べない?」


つばさは一瞬驚いて、

それから、

小さくうなずいた。


いつもの席。


でも、

今日は二人だけだ。


弁当を開けて、

しばらく沈黙が続く。


その沈黙を、

俺が破った。


「なあ、つばさ」


「うん」


「……俺のこと、

夏目の後継人だって

思ってる?」


つばさは、

少し目を見開いた。


「ちがうんですか?」


その素直さに、

思わず笑ってしまう。


「違うよ」


俺は、

ちゃんと言葉を選んだ。


「夏目は幼なじみで、

朝起こしてくれて、

世話焼きで」


「一個上で、

卒業したら、

一年ずつ空白ができる」


「その空白の間、

俺は何もできなかった」


つばさは、

黙って聞いている。


「でもさ」


俺は一度、

深く息を吐いた。


「つばさを、

誰かの代わりにするつもりはない」


「後継人になんて、

したくない」


つばさの表情が、

少しだけ緩んだ。


「抜けてるところ多いよ、俺」


「頼りないし、

つばさが思ってるより、

全然ダメだと思う」


それでも、

目は逸らさなかった。


「……それでも」


「こんな俺でも、

好きになっていいか?」


胸が、

うるさいくらい鳴っている。


つばさの顔が、

みるみる赤くなる。


口を開いて、

閉じて。


言葉が、

見つからないみたいだった。


俺は、

何もしなかった。


触れたら、

卑怯になる気がしたから。


ただ、

待った。


誠実さは、

派手な言葉じゃない。


逃げないこと。

待つこと。


それだけだ。


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