転校生はまぶしい
変わらない日常は、
ほんの少しの視線で、
形を変えてしまうことがある。
この日、
夢咲の世界に現れたのは、
まだ名前のついていないまぶしさだった。
朝の教室は、
まだざわついていた。
担任が黒板を叩いて、
「静かに」と言う。
「今日から、
このクラスに転校生が来ました」
その一言で、
視線が一斉に前へ向く。
「秋内つばささんです」
教室の扉が開いて、
ひとりの女の子が入ってくる。
「秋内つばさです。
よろしくお願いします」
声は少しだけ緊張していて、
でも、
逃げなかった。
その視線が、
一瞬だけ、
俺と重なる。
胸の奥が、
ひくっと鳴った。
理由は分からない。
ただ、
まぶしいと思った。
「じゃあ、
席は……」
担任が言いかけたところで、
クラスの後ろがざわつく。
「夢咲の隣、空いてます」
誰かが言って、
俺は一瞬、息を止めた。
秋内は小さくうなづいて、
俺の隣の席に座る。
「よろしくね」
そう言って、
彼女は笑った。
普通の、
よくある挨拶。
なのに、
それだけで、
俺は少しだけ落ち着かなくなる。
授業中、
何度か視線を感じた。
気づくと、
秋内はノートを取りながら、
ときどき顔を上げている。
目が合うと、
俺は反射的に視線を逸らした。
なぜか、
直視できなかった。
話しかければ、
普通に話せる。
「ここ、写していい?」
「ああ、どうぞ」
それだけ。
それだけなのに、
胸の奥が、
騒がしい。
昼休み、
いつものように夏目と食堂へ向かう。
隣を歩く夏目は、
変わらない。
「転校生、どう?」
軽い声。
俺は、
少しだけ言葉に詰まる。
「……普通、かな」
そう答えた瞬間、
夏目の横顔が、
ほんの少しだけ、
静かに見えた。
「そっか」
それだけ言って、
夏目は前を向く。
その背中に、
理由の分からない罪悪感が刺さる。
教室に戻る途中、
廊下の向こうで、
秋内と目が合った。
今度は、
逸らさなかった。
彼女も、
逸らさなかった。
その一瞬が、
何かの始まりみたいで、
でも、
まだ名前のないものだった。
日常は、
何かが起きたあとではなく、
起きる「直前」に揺れる。
その揺れに気づいてしまった時、
もう元には戻れない。




