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朝を起こす人

誰かの隣に立つことと、

誰かの代わりになることは、

似ているようで、まったく違う。


この物語は、

卒業で終わる恋と、

名前を呼ぶことで始まる恋のあいだを描いている。


ここにあるのは、

選ばれなかった想いではなく、

選び直す勇気の話だ。


朝は、夏目の声で始まる。


「夢咲、起きて。

おばさんが起こしてって言うから、私、毎日朝早く来てるんだからね」


布団の中で目を擦る俺の腕を引っ張って、

夏目は半ば強引に起こす。


「ほら、シャツ」


差し出されたシャツに腕を通すと、

今度はネクタイを手際よく結ばれた。


鏡越しに見える夏目は、

もう大人みたいで、

俺より一歩先を歩いている人みたいだった。


「私が就職したらさ、

こんなことできないんだからね?」


冗談めいた声。

でも、少しだけ軽くて、

少しだけ遠い。


「じゃあ、ずっと居ればいいじゃん」


眠気の残る頭で、

俺はそんなことを言ってしまう。


夏目は一瞬だけ動きを止めて、

それから、ふっと笑った。


「それ、簡単に言わないで」


怒っているわけでも、

悲しんでいるわけでもない。

ただ、

決まった距離を保つみたいな声だった。


俺と夏目は幼なじみだ。


親同士が仲が良くて、

気づいたら隣にいて、

気づいたら朝を共有していた。


恋人かと聞かれたら、違う。

でも、

誰にでも代われる存在かと言われたら、

それも違う。


「ほら、遅刻するよ」


玄関で靴を履きながら、

夏目は俺の背中を押す。


その背中は、

追いつけないほど遠くはないのに、

なぜか、

触れたら消えてしまいそうだった。


家を出る直前、

夏目は振り返って言った。


「ねえ、夢咲」


「私、

今年で卒業だから」


それだけ。


それ以上は、

何も言わなかった。


「……知ってるよ」


当たり前の事実のはずなのに、

その朝は、

胸の奥が少しだけ重かった。


俺はまだ、

その意味を知らない。


ここまで読んでくださって、ありがとうございました。


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