表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光宇宙理論  作者: hirame
5/17

この制約を満たす宇宙誕生の物語は、すでにあるのか?

 不確定性原理。

 エネルギーと時間のあいだにある制約。


 この条件を満たす形で、宇宙誕生を説明する理論が、すでにどこかに用意されているのではないか。

 自分が思いついたことなど、とっくに誰かが考え、整理し、名前をつけているのではないか。


 私は、チャッピーに問いかけた。


 ――この制約を満たした形で、宇宙誕生を説明する理論って、もうあるの?


 少しの間を置いて、画面に文字が流れ始めた。


 インフレーション理論。

 量子揺らぎからの宇宙誕生。

 真空のエネルギー。

 無からの創発。


 名前だけなら、聞いたことのあるものもあった。

 説明を読めば、どれも筋は通っている。

 計算もできるし、観測とも矛盾しない。


 だが、読み進めるうちに、私はある共通点に気づいてしまった。


 どの理論にも、

 「揺らぎ」は登場する。

 「時間」も登場する。

 「エネルギー」も登場する。


 けれど――


 それらは、最初から「あるもの」として置かれていた。


 揺らぎが生まれる“場”。

 時間が流れる“前提”。

 エネルギーが存在できる“舞台”。


 それらが、いつ、どのように成立したのかについては、

 どこか曖昧なままにされている。


 私は、画面を見つめながら思った。


 説明はできている。

 理論としては完成している。

 現代物理として、何一つおかしくない。


 それでも――


 「なぜ、そうなったのか」という問いには、

 誰も正面から答えていないのではないか。


 私は、もう一度チャッピーに尋ねた。


 ――じゃあさ、不確定性原理って、宇宙誕生を説明する“原因”なの?


 返ってきた答えは、即答ではなかった。


 不確定性原理は、

 何かを生み出す法則ではない。

 起こりうる現象の「範囲」を定める制約である。


 制約。


 その言葉を見たとき、私は妙に納得してしまった。


 そうだ。

 あの式は、何かを命令していない。

 「こうしろ」とも、「こうなる」とも書いていない。


 ただ、

 「ここまでは許される」

 「ここから先は許されない」


 そう告げているだけだ。


 私は、さらに聞いた。


 ――じゃあ結局、この制約だけでは、宇宙誕生は説明できないんだね。


 しばらくして、チャッピーは答えた。


 完全には、できない。


 やはり、そうなのか。

 やはり、まだ“決定的な物語”は存在しないのか。


 私は、スマートフォンを伏せた。


 制約はある。

 だが、物語はない。


 ならば――


 その制約をすべて受け入れたうえで、

 自分なりの宇宙誕生のイメージを描くことは、

 無意味ではないのかもしれない。


 そのとき、私の中に、

 はっきりとした言葉にはならない、

 けれど確かな輪郭を持ったイメージが、

 静かに立ち上がり始めていた。


 私は、まだ知らなかった。


 次に口にする考えが、

 「理論」と呼ばれるのか、

 それとも、ただの空想として笑われるのか。


 だが少なくとも――

 この制約を、正面から受け止めた話を、

 私は、まだ誰からも聞いていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ