ポンコツAI!俺は敵と戦いたいんだ!
『で?ポンコツAI殿、初仕事は何に致した?』
《 ……。その呼び名は気に食わないのですが、貴方にピッタリの仕事を探してきましたよ。
内容ですが、大気圏上空にある衛星砲の破壊です。今まで使い道のなかったZERO-EIGHTのカノン砲がこれで役に立ちますね。》
いいや、EIGHTのカノンはブースターでもあるので大いに役に立っているのだがな。
『そんで、また宇宙に戻るのかぁ?』
《ある程度の高度を取れば宇宙に戻らなくても破壊可能なはずです。》
大気圏突入スレスレでカノンを使って衛星砲を撃ち抜けってか。
それなら楽勝だろうと思ったのだが、ポンコツAIが爆弾を投下する。
《あぁ、早く破壊しなければZERO-TENと一緒に燃え尽きますからね。》
ZERO-TENと一緒に燃え尽きる…?
『いや待て!どういうことだ!何故ZERO-TENが出てくる!?』
ふと、思った。
衛星砲が発射されるということは、何かしらの目的があるのだろう。
ポンコツAIの話を聞く限りでは、衛星砲射線上にZERO-TENいる。
たしかZERO-TENの0816の元の任務は…元は友好関係だった他組織との共同任務。
その他組織をECO-COREが裏切り、ZERO-TENは他組織に助力する形で裏切り者となった。
それより問題は、だ。
『少し噂を耳にしたことがあるんだが、まさか本当にECO-COREは衛星砲を保有していたのか…。
狙いはTEN、あるいは他組織か?』
裏切り者として排除対象となったZERO-TEN…0816は、俺を派遣したがこれも裏切られ、ECO-COREは0816と行動を共にする、敵組織の主力と主要基地を諸共消失させるいい機会とでも思ったのだろう。それを可能にさせるのが衛星砲。これが大体の全容なのだろう。
恐らくECO-COREの主力である他のZERO SERIESを、まだまだ大事に取っておく為でもあると思うが…。
《小学生程度の知識しか蓄えていないと思っていましたが、これくらいは考えられるのですね。》
考えを読み取ったポンコツAIは少々呆れながら、口を挟んできた。
『人のこと言えねぇだろ、ポンコツAI。
それに俺は敵と戦いたいと言った!
なのになんで衛星砲破壊なんだよ…。』
《はぁ…まるで駄々を捏ねる子供ですね…。
ECO-COREが衛星砲を発射すれば、“とんでもないこと”になって、貴方がやりたい仕事が無くなるだろうから、この任務にしたのですよ。
“先を見越して”この依頼にしたのです。
やはり貴方は馬鹿ですね。》
そこまで頭が回らなかったことを、ポンコツAIは言いたい放題言いやがった。
『衛星砲諸共吹き飛ばしてやろうか?このクソポンコツAI野郎め。』
この時、ZERO-EIGHTの内部フレームがほんの僅かに紅蓮の光を灯したのを、0728とAIは知る由もなかった。
『もうそろそろか。ポンコツAI、コイツを撃つ時、EIGHTは滞空してられるか?』
ビームカノンは常時、ブースターユニットとして使用している。
そしてそもそも、ZERO-EIGHTのビームカノンはビームカノンとして使うことを考えていない。
ビームカノンはあくまでストローのような、あってもなくても問題無いものだ。
開発者どものお遊び程度で、ブースターユニット兼ビームカノンにされただけ。
ブースターユニットは機体ほど大きくは無いが大型で、それに比例するようにビームカノンは従来のものより大火力だ。
重量も桁違いに重く、大気圏スレスレの上空でブースターユニット無しで、考える限りとても滞空できそうで無い。
《私もそう思うのですが、ZERO-EIGHTの分析結果では90%問題無いと出ています。》
恐らく初めて、ポンコツAIと意見が一致した。
『どうしてその結果になったと出ているんだ?』
《エラーコード:0008、と出ています。》
ZERO-EIGHTについて、何故か”今更“謎になった。
そう言えば、ZERO-EIGHTのことを何も知らない、それはポンコツAIも同様なのだろう。
『おい、もしかして、EIGHTも馬鹿なのか?』
《貴方と同じで脳筋なのでは?》
ZERO-EIGHTの機体の何処かが軋んだような音がした。
恐らく頭部あたり。
『EIGHTが言っているぞ…誰が脳筋だ、消滅させられたいのか、となァ!』
その時だった。
不意に『バシュッ』と、なにかが外れる音がした。
何事だ、と思えば。
《 ZERO SYSTEM 駆動制限時間:0600 》
全体の装甲の一部が横にスライドし、内部フレームが露出した状態で紅蓮色に灯される。
そして、駆動制限時間の数字は、1秒ずつ減ってゆく。
『なんだこのシステム?EIGHTの全体の機動力が二倍になってるじゃねぇか!
EIGHTの言いたいこと分かったぜ!10分の間に終わらせろってか!』
乗り気の0728に比べ、AIは瞬時に解析する。
《成程、ZERO-EIGHTがこうも自身満々であったのはこのシステムがあるから…。
でもこんな無謀なシステム…。
通常の機動力でも危ないというのに二倍だと、たとえGSgeRで肉体強化を行ったとしても搭乗者の肉体が持たないはず!それにこれでは装甲が意味をなさない!
一体どこの馬鹿がこのようなシステムを考えたのですか!》
確かにこのポンコツAIが言うことは正しいのだろう。
でも、射線上にいるZERO-EIGHTは衛星砲をぶっ壊すしかもう生き残れないに等しい。
せっかくEIGHTが力を貸してくれると言うんだ、有効活用してやらなきゃな。
『行くぞ、EIGHT!お前の力を存分に使ってやるから、それに見合う最高な結果を出すんだ!』
ZERO-EIGHTは地面を蹴って跳んで、飛んだ。
星に目掛けて、掴みに行くように、ZERO-EIGHTは高く高く飛んで行く。
そしてそれは紅蓮の流れ星のようだった。
およそ5分ほどで、目標の高度まで辿り着いたZERO-EIGHTは、ブースターユニットをパージしてビームカノンに変形させた。
両腕で構えて、目標を狙って。
狙った先で0728が見たのは、今にでも撃たれそうな衛星砲の姿だった。満月のような。でも、
『本物の方が遥かに綺麗だった。』
ZERO-EIGHTがビームカノンのトリガを絞る。
途端に、エネルギーがビームカノンの中で瞬時に渦巻くような感覚が伝わって、放たれた白い線が綺麗に衛星砲を撃ち抜いた。
衛星砲が映し出していた、ニセモノの満月が消え、代わりに赤い炎がちらほらと見えた。
それは依頼達成を示していた。
我に返った0728は、ZERO-EIGHTが落下して行っていることに気がついた。
『やべっ、立て直さなきゃ…。』
そう思うのも束の間、動かす前に勝手に動いた。
スラスターで姿勢制御、ビームカノンをブースターユニットに変形させ、背部に装着。
ゆっくりと着地させ、ZERO SYSTEMが解除された。
装甲は元に戻ったものの、内部フレームの光は灯ったままで。
『ポンコツAI、ひとまず一件落着で良いよな?』
衛星砲を撃ちに跳んだあたりから何も言わなくなったポンコツAIに話しかけた。
《はいそうですね、と言える訳がないでしょう?
ZERO-EIGHTの専属AIとして導入されるあたり、ZERO-EIGHT、それに関連するものに関して全てのデータを書き込まれたはずなのですが、ZERO SYSTEMに関するデータは何もありません!
だから解析したところ、全くこのシステムは操縦者殺す気満々システムではないですか!》
でもそのシステムのおかげで衛星砲を見事に撃ち抜くことが出来たのだが、とは言わないでおいた。
とてもZERO-EIGHTの調子が良い気がしたのでそれで良いことにしようと、0728は思ったのだった。




