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5.今後のこと

 オルブライト公爵令嬢が王太子殿下の婚約者に決まったのは五年前。

 その決定と同時に空前の婚活のブームが起こった。殿下の妃を狙っていた令嬢が一斉に婚約者を探し始めたのだ。男爵家や子爵家はすぐに条件を下げ、同等の爵位の子息やお金持ちの商人の息子と縁を結んでいる。私は下位貴族の令嬢たちが本気で殿下の婚約者の座を狙っていたことに驚いた。伯爵令嬢の私でも身分違いだとの自覚はある。そもそも正式にアイリーンと婚約する前から、殿下が彼女に執心しているのは有名だったのだから。


 公爵家や侯爵家の令嬢は相手の身分を妥協したくないらしく、他国の高位貴族とお見合いをしている。

 私としてはそれなりの身分があれば嬉しいがこだわりはない。貴族であることは条件になるが、基本的には誠実で堅実な人であることが望ましい。裏切らないでくれれば最高だ。


 社交界の独身男性を思い返してみたが、同年代の婚約していない人はお金や女性関係にだらしなく問題ありの人でさすがに妥協できない。

 年齢幅を広げて考えるとそこそこ年上になる。一度結婚して奥様を亡くしている人とか訳アリで離婚している人とか。当然訳アリは除外する。寡夫でお子様がいない人は跡継ぎの問題があるので、新しい奥さんを探しているから声がかかる可能性が高い。でも受けるのは躊躇う。


(だって先妻さんをすごく愛していたら? 私の存在は後継者を生むためだけになる。それは切ない。せめて愛はなくても私の存在を尊重してくれる人じゃないと嫌だな~)


 といって年下に目を向けるとかなり下になる。ベビーブームのあと子供が少なくなった期間があり、再び子供が増えたのはレックスの年代だ。私は弟と同年代の人との結婚は考えられない。


 そうなると他国の子息……これは伝手が必要で、そうなるとお母様の実家のコリンソン侯爵家の力を借りるようになる。侯爵家は仕事上、他国との交流が多いのでお願いすればきっと快く相談に乗ってくれるとは思う。でも迷惑をかけたくないし、そこまでして相手が見つからなかったら落ち込む。それに国を離れたくない。


(私、我儘かしら? それなら思い切ってビジネスライクな結婚を目指してみるのもありかも。契約結婚を求めている人いないかな? 家政を仕切り貴族内の社交を請け負うから、私の立場と生活を保障してくれるような……)


 どうしよう。考えれば考えるほど、幸せな結婚ができる気がしない……。


「駄目です! 姉上はお嫁に行かないでずっとここにいてください! 僕が姉上をお守りしますから」


 ずっと黙って私と両親のやり取りを聞いていたレックスが急に大きな声を出した。私はびっくりしてレックスを見ると、レックスはキリっとした真剣な顔をしていた。私を想ってくれる心に胸の奥がジーンと熱くなる。お姉様は幸せだわ。


「レックス。ありがとう。でも私がずっとここにいてはレックスがお嫁さんをもらう時に邪魔になってしまうわ」


 レックスは目を吊り上げると首を横に振った。幼さを残す丸い輪郭が、怒っても可愛らしいことはレックスには内緒。膨らませた艶々のほっぺを撫でたくなる。


「姉上を邪魔に思うような女性とは結婚しません。そんな女性と結婚するくらいなら僕は一生独身でいいです」


 大変! 二人で独身主義になったら、家が途絶えてしまう。


(それは困る。でも……私の弟、世界一素敵! スコットに爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだわ)


 両親がレックスの言葉に感動して目を潤ませている。私の目も潤んでいる。ああ、悲しみが浄化されていく。


「セシル。慌てなくてもいいと思うぞ。誰に遠慮する必要もない。いつまでも家にいればいい。それに私がセシルに相応しい相手を見つけてくる。な?」


 お父様の優しい言葉に萎えた心に力が蘇る。昨日振られたばかりでちょっと悲観的になったけれど、心配してくれる家族のためにも幸せを諦めるわけにはいかない。


「はい。次はぜひお父様に選んで欲しいとは思っていますが、じっとしていても良縁は転がり込んできません。こういうことは勢いが大切だと思うのです。だからお見合い相手を探してください」

「……僕はまだ姉上と一緒にいたいです」


 私が意気込みを伝えるとレックスが口を小さく尖らせた。私だって可愛い弟といつまでも一緒にいたい。でもレックスのお荷物にもなりたくない。

 

 その時、急に玄関から女性の声とそれに対応している執事の強めの声が聞こえてきた。


「誰か来たのかしら?」

 

 お母様が来客の予定はないはずだと首を傾げていると、執事が困惑顔で部屋にやってきた。


「旦那様。バートン伯爵令嬢がお見えになっていて、セシルお嬢様に会いたいとおっしゃっていますが、どういたしましょう?」


 エイダには会いたくないし用もない。面倒な予感しかない。私は頭が痛くなった……。


「それなら私が会いましょう」


 お父様が口を開く前に、お母様が威圧感たっぷりな笑みを浮かべながら勢いよく席を立った。そのまま玄関に向かおうとしたので慌てて引き留める。

 私を守ろうとしてくれるのは嬉しいが、自分で対応したい。このタイミングでエイダが私を訪ねてくるのは、どう考えても喧嘩を売っている。

 私がスコットと婚約をした時はエイダからお祝いの言葉をもらっていない。親しくしていなかったのだからそれは問題ないが、立場が入れ替わった途端に会いに来るのは悪意があるとしか思えない。お母様に任せればエイダを撃退してくれるだろう。でもこれは私の戦いであり、私が自分で対処するべきことだと思う。


「待ってください。お母様。私が会います」

「でもセシル」

「お願いします」

「……わかったわ」


 お母様は渋々引き下がった。私の意思を尊重してくれた。私はエイダを応接室に通すように執事に頼んだ。


 私とエイダの祖母たちが姉妹で、二人が健在中は親戚の集まりで会うことがあった。同じ歳であることから自然と一緒に遊んだのだ。だが祖母たちが亡くなりしばらくしてエイダのお母様が亡くなり、それ以降疎遠になってしまった。

 学園でもクラスが離れていたこともあり。お互いにわざわざ話しかけることもなかった。今日話をするのはかなり久しぶりになる。

 私は心に気合を入れて部屋に向かった。




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