表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者から「君のことを好きになれなかった」と婚約解消されました。えっ、あなたから告白してきたのに?   作者: 四折 柊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/40

19.二人の相性(ヴァンス)

 婚約の手続きが済むとすぐに彼女に護衛の手配をした。我が家に来るときは襲撃に備えた頑丈な馬車を出して送り迎えをする。それに対し父が意外そうな顔をする。顔合わせの言動で私がこの婚約にさほど前向きではないと思っていたようだ。


 勝手に婚約を申し込んでおいて失礼だな。最終的に私の意思でセシルに婚約を申し込んだと思っている。私はアイリーンの話や調査結果を見て納得したし、会った印象もよかった。それに婚約した以上、セシルを守る責任が私にはある。彼女はもうオルブライト公爵家の人間になったも当然で、嫉妬や妬みで危害を加えようとする輩がいる可能性を無視できない。


「そうか、仕事が早いな。確かに用心はした方がいい」

「ええ、今まで私に婚約の打診をしてきた者の中で、セシルを選んだことを知って嫌がらせをする人間がいるかもしれません。婚約の公示はその辺りを牽制してからにしたいのですが」

「そうだな。私も動いておこう」

「お願いします」


 私が帰国するなり縁談を申し込んできた家が多数あった。その家に断りの返事を送る。怪しい動向をしそうな人物にはあらかじめ釘を刺しておく。親戚の中でも娘を私に嫁がせたいと思っている家もある。その家には当主を呼び出して「家を潰されたくないならわかっているな」と仄めかしておく。父が同席すれば、これがオルブライト公爵当主の決定と認知させることができるのだ。


 婚約が正式に整うと私はまずセシルにドレスとアクセサリーを贈ることにした。

 バセット伯爵夫妻が我が家を訪ねてくれたときに挨拶はしてある。その時に夫人からセシルの好みを聞いておいたのでそれを我が家のお抱えのデザイナー、その中でもアイリーンを担当していた女性に伝えデザイン画を描いてもらう。


 デザイナーは「あのヴァンス様にとうとう婚約者が!」と感動しながら、連日徹夜をしてデザインを仕上げてくれた。デザインはセシルのイメージに合ったもので納得できるものだった。相当張り切ってくれたので、臨時の給金を支払うことにした。

 出来上がったデザインに目を通し、特にセシルに似合いそうだと思ったものをまずは二着ほど急いで作らせる。婚約の公示後には二人で夜会に出ることになる。その為のドレスも急いで用意しないと。いずれセシルの意見も取り入れたいが、まずは最低限必要な分だけ注文した。

 出来上がったドレスを届けるとセシルはすぐさま礼状を送ってくれた。当たり前ではあるがそれができない女性もいる。セシルの文字は読みやすく綺麗だった。私がそれを見ながら顔を綻ばせると母が目を丸くした。


「ヴァンスもそんな顔をするのね」

「どんな顔ですか?」

「にやにやとだらしない顔!」

「……」


 私は口をひん曲げ不満を示した。至って真面目な顔をしていたつもりなのに。


「ところでヴァンスはいつから笑えるようになったの?」

「!!」


 私は笑っていたのか……。自覚も意識していなかった。そうか、私は笑えたのか。それならセシルのおかげだ。会う時間もなく手紙のやり取りがメインになっているのに、セシルの何かが私の女性に向ける警戒心を消してくれたのかもしれない。ふと初対面の時の屈託のない笑顔を思い出した。 


「ふふ。よかったわね。セシルさんと相性がよかったみたい。ヴァンス、絶対にセシルさんを逃がさないようにね!」

「はい……頑張ります」


 恋愛感情が生まれているのかはわからない。でもセシルが婚約者でよかったと思う。

 もっとセシルのことを知って信頼関係を深めたいと思ったのだが、セシルと二人で会える時間があまりにも少ない。なぜなら私が忙しすぎるからだ。

 

 親友で主でもあるこの国の王太子のもとに妹が嫁ぐ。その準備に加え側近としての仕事があり完全にキャパオーバーだ。

 それでも先日お茶会をした。セシルは私が贈ったドレスを着てくれていた。女性にドレスを贈るのは初めてだったが、セシルによく似合っていた。私のセンスもなかなかじゃないかと嬉しくなった。

 当日はアイリーンが好きな菓子屋のクッキーを買いに出かけて準備をした。アイリーンが好きな物だから単純に女性が喜ぶと考えたのだが、母がこめかみに手を当ててぶつぶつ言っていた。

 もっと気の利いたものは思いつかなかったのかと責められたが、何が悪いのか理解できない。セシルは喜んでいたから成功している……よな?


 メインは手紙のやり取りになっている。残念なことに私よりも母の方がよほどセシルと過ごしている。夕食時には今日のセシルはどうだったと教えてくれるのだが、その言葉に優越感が滲んでいることにムカついている。もちろん口には出さないが。羨ましい? とばかりにニヤニヤして私を揶揄おうとしているのが見え見えだ。さらに父とアイリーンが加担するのがさらに苛立ちを掻き立てる。この日は母やアイリーンから苦言を受けた。


「せっかく一緒にいるのに妹の話ばかりしていないで、もっとセシルさんを楽しませる話題をしなさいよ」

「そうよ。きっとセシル様は呆れているわ」


 母と妹に責められた。告げ口をした犯人である侍女に視線を向けるとふいっと目を逸らした。


「共通の話題がアイリーンのことしか思いつかない。それにセシルもレックスの話をする。お互いの家族の話題だから問題ないはずだ」


 セシルは弟レックスをとても大切にしている。私がアイリーンの話をすると怒るわけでもなく、それどころか負けじとレックスの自慢話をする。嚙み合っていると自負して胸を張る私に対し、母とアイリーンが二人揃って天を仰いだ。


「ヴァンスはお父様に似て顔もスタイルもいい。頭も悪くないけど女性の楽しませ方をわかっていないわ……」

「そんなことはない。セシルは楽しそうにしてくれている!」


 私は言い返したが、はたと思った。贈り物をして手紙のやり取りをして喜ばれている。でも会話や手紙の中で私への質問がまったくない。


(もしかしてセシルは私に興味が無いということか!?)


 少なからずショックを受けた。まさか、この婚約が不本意だったのか? 自分より身分の高い私に婚約を打診されて断れなかった? これは挽回せねばならないが、どうやって? 女性に言い寄られることはあっても言い寄ったことは一度もない。


(そうだ! ワイアットがアイリーンを口説いた様子を参考に……)


 身近な見本がいたと思い出してみたが役に立たなかった。ワイアットはアイリーンに会うたびに「好きだよ」「愛してるよ」を連発して、さらには手を繋いで見つめ合っていた。


(ワイアットは私の目の前でも堂々といちゃつくから、見ているこっちが恥ずかしくなったものだ)


 あれは二人が相思相愛だから成立する。セシルがまだ私に興味を持っていない段階でしていいことではない。そもそも自分の気持ちがまだはっきりしていない。セシルに恋をしているのか愛情を抱いているのかわからないので、愛を囁くことはできない。


 セシルの気持ちはわからないが、バセット伯爵家の人たちは私の味方になってくれている。特にレックスは結婚前だがすでに「義兄上」と呼んでくれるほど懐いている。


 私は弟ができて嬉しい。妹は……小さい頃は可愛かったのに、最近は年々母に似て口やかましくなってきた。

 レックスとはすぐに打ち解けた。どうやら前の婚約者ベイリー侯爵子息が好きじゃなかったらしい。セシルとは別にレックスとも頻繁に手紙のやり取りをしていて、色々な情報をもらっている。


 レックスの顔は伯爵夫人に似ている。でも、笑った表情の雰囲気はセシルにそっくりでやはり姉弟だなと微笑ましい。優しいお日様を感じさせる温かい笑顔を見ると、レックスを守ってやりたいと思う。

 これだけセシルの家族と良好なのだから、セシルともきっと上手くいく。とにかく二人の時間を作ることだ。


(もう少しすれば仕事が一段落着く。そうしたら外出に誘おう)


 と思ったが甘かった。アイリーンとワイアットの結婚式が三か月後に控えている。自分の結婚式の準備も進めなくてはならないので、正直なところもうひとつ体が欲しい。

 そう愚痴を溢したらワイアットが、今日の午後の予定を変更してくれて半日休めることになった。


 セシルがウエディングドレスの相談をデザイナーとする日だったのでちょうどいい。打ち合わせは今回で四回目。三回までは一度も立ち会えていない。進捗は聞いているが一緒にいてやれないことが申し訳なかった。


 打ち合わせの後は一緒にお茶をしよう。夕食も摂れるかな。帰りが遅くなりそうなら送って行けばいい。


 セシルが目を輝かせてケーキを食べる姿が頭の中に浮かんだ。無邪気な笑顔が可愛い。想像するだけで胸の奥が切なくなる。


(ん? これは……どういう感情だ?)


 私はまだ自分の気持ちに確信が持てない――。  





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ