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ここでやらなきゃ女が廃る、恋する聖女はアグレッシブです

作者: 満原こもじ

「だから問題はこの首輪なのだ」


 目の前のイケメン男子シェイマス第三王子殿下に視線がロックオン。

 苦渋の表情も格好いい。

 大体第三王子っていうポジションが絶妙だと思う。

 だって王太子殿下なんて公務公務で大変じゃん?

 シェイマス殿下が将来王籍のまま陛下を補佐することになるか、それとも臣籍降下して領主貴族になるかは知らんけど、一生安泰だよ。

 こういう人の奥さんになりたい。


「聖女ムジカ殿、首輪の呪いは解けるだろうか?」

「ちょっとその首輪見せてくれる?」


 シェイマス殿下に呪いの首輪が装着されてるから、何とかしろとの御依頼です。

 あたし?

 こう見えても世界唯一の聖女だよ。

 ただの美少女じゃなくてさ。


 そんなことよりシェイマス殿下はあたしより一つ年上で、あたしとはちょうどお似合いだと思うの。

 聖女眼はシェイマス殿下が性格もいい男であることを見抜いているのだ。

 でも婚約者選定も進んでるはずだしなあ。

 聖女でも平民じゃお嫁さんはムリ?


「どうだろうか?」

「受肉しちゃってるのか。かなりひどい呪いだね」


 首輪がシェイマス殿下に食い込んじゃってるわ。

 殿下にピッタリ寄り添ってるとか、なんて羨ましい呪いなんだ。

 許せん。

 解呪!


「おお、殿下。肌から首輪が離れましたぞ!」


 従者は喜ぶけど……。


「……ダメだ。解呪の魔法じゃ一時的に中和するのが精一杯だわ。おまけに外れない」

「えっ?」

「首輪が外れないのは呪いじゃないわ。嵌めると外れなくなる機械的な仕掛けみたいだな。材質自体がかなり硬いし、どーすべ?」

「宮廷魔道士長ガリオン殿も同じことを仰っていました。宝物庫の聖剣を持っていけと」


 なるほど、聖剣は何でもスパスパ切れるって話だから。

 ガリオンのじっちゃんはさすがにやるなあ。


「じゃ、あたしが解呪したまま首輪を肌から浮かせておくから、聖剣で切ってくれる?」

「わかりました。殿下、刃を向けることをお許しください」

「うむ、頼む」


 殿下の従者が首輪を切ろうとする、が?

 キイイイイイイイイイイイイイイン!


「ダメです! 反発します!」

「マジか」


 聖剣って確か神の金属オリハルコンでできてるんでしょ?

 じゃあこの呪いの首輪もオリハルコンで作られてるってこと?

 神の金属で呪物を作るなんて、そんなことできるん?

 すげえ技術だな。

 オリハルコン自体メッチャ希少な素材だし、何なんこれ?


「見た目よりずっとヤバいアイテムじゃん。何でこんなもんが愛しのシェイマス殿下の首に装着されてるのよ?」

「愛しの、って」

「あっ、本音が出ちゃったわ」


 ハハッ、殿下の顔も赤くなったわ。

 可愛い。


「……聖女殿に話すつもりはなかったが、妹だ。カリナが僕の首に着けた」

「カリナちゃんが? どーしてカリナちゃんが呪いのアイテムなんか持ってるの?」

「侍女に渡されたのだそうだ。きっとドウェイン様に似合いますよって」

「王太子殿下に?」


 じゃあこの呪いの首輪の標的は、本来王太子殿下だったのか。

 ところがカリナちゃんは良かれと思ってシェイマス殿下に着けた。

 王太子殿下はシェイマス殿下以上にお忙しいだろうから、カリナちゃんが会える機会はなかったのかもな。


「その侍女は何者なん?」

「自死したから真実はわからん。オールストン伯爵家からの紹介状を持っていて、数年前から王宮で働いていたんだ。紹介状自体は本物だったが、オールストン伯爵家では問題の侍女は知らない、違う者のために書いた紹介状だと言っている」

「ふーん、謎が謎を呼ぶねえ。で、推測でいいから侍女の正体は?」

「……隣国コーゾスの間者ではないかと」


 だよなあ。

 国家権力が絡んでないと、こんなお金かかってそーな呪物は作れんわ。

 コーゾスなら納得だわ。


 コーゾスは我が国フィルナスとすげえ仲悪いんだよな。

 しょっちゅう小競り合い起こしてんの。

 コーゾス王家は無神教を標榜していて、理論とか魔道技術を重視してるって言われてる。

 聖神教会の聖女が目障りだって、あたしまで目の仇にされているのだ。

 実に迷惑。


「コーゾスが王太子殿下の暗殺を謀って、こんなもんを用意したと」

「証拠はないがな」

「聖女殿、どうにかならないでしょうか?」


 ……ならなくはないんだけど。


「……呪いを解くとなると、問題が三点ほどあるんだよ」

「問題とは何だろう?」

「殿下はあたしをお嫁さんにしてくれる気、ある?」

「「は?」」

「物理的に破壊するのは呪いを解く一つの手段なの。聖剣じゃダメだったけどさ」

「うむ、聖女殿には聖剣に頼らず破壊する手段があるんだな?」

「あたしが身体強化魔法使ってムリヤリ引きちぎることはできると思う」


 ただなー。


「でもオリハルコンって神の金属じゃん? オリハルコンで作られたものをわざと壊すなんてことしたら、神様の不興を買うかもしれないんだよね。あたしは多分加護を失うわけよ。すると聖女じゃなくなっちゃう」

「何と!」


 ひょっとしてコーゾスはあたしが呪物を壊すしか方法がないと考えて、こんなことしてきたのかなあ?

 フィルナス王国から聖女がいなくなれば万々歳だと。

 やり方が陰険だわ。

 メッチャ嫌らしい。


「もっとも神の金属を呪物にしたコーゾスが神様に怒られるのかもしれない。その辺は神様の考えだから、正確なところはわかんないな」

「我が国から聖女がいなくなるとなれば、国際関係に大きく影響しますぞ」

「……うむ」

「国際関係はひとまず置いとくよ? あたしの生活の保障がなくなるから、お嫁さんにしてくれるかって聞いたんだけど」

「それはもちろん構わん」

「やったあ!」


 即答だわ。

 シェイマス殿下はあたしに好意を持ってくれてるみたい。

 嬉しいなあ。


「残りの問題点とは何だろう?」

「聖神教会は、聖女がいなくなることによる賠償金を王家に求めると思う。国家予算の何分の一かの金額で」

「「……」」


 殿下と従者が唖然としてるけど、だって聖女っているだけで教会はウハウハなんだもん。

 信仰心は高まるし世界中から人が集まるし。

 替えが利かないんだもん。


「……最後の問題点は?」

「あたしは呪術師じゃないからこれまたよくわかんないんだけど、強い呪いを解除した時って呪いが術者に跳ね返る場合があるんだよ」

「何だと?」

「カリナちゃんが術者判定されると、カリナちゃんが呪われるかもしれない」

「「……」」


 もっとも宮廷魔道士長ガリオンのじっちゃんがあたしんとこへ聖剣とともにシェイマス殿下を寄越したところをみると、大丈夫だとは思う。

 でもガリオンのじっちゃんが状況を全部把握してたとも限らないしな?

 確認は必要だろ。


 沈痛な表情のシェイマス殿下。


「……どの問題点も深刻だ。つまり僕はこのまま死んだ方がいいということか」

「呪いを解かなきゃいけないんだとそーゆー結論になるね。でも必ずしも呪いを解かなくてもいいわけじゃん?」

「どういうことだ?」

「あたしを信じて任せてもらえれば、極めて格安で状況を解決してみせるよってこと」

「信じた。任せる」

「おお、殿下は思いっきりがいいね。じゃ、聖剣借りる。パラライズ!」


 シェイマス殿下を麻痺させる。


「聖女殿、どうなさるので?」

「解呪して首輪を浮かせた状態で殿下の首を切る」

「ええっ!」

「頭でつっかえさえしなければ、解呪で中和させときゃ首輪は簡単に外れる。その後に頭を回復魔法で胴体にくっつける」

「危険ですよ!」

「わかってるけど、首輪を破壊するのは現実的じゃないんだって。放っとくと多分一ヶ月くらいで殿下は衰弱死するぞ?」

「そ、それはガリオン殿にも同じことを言われましたが……」

「殿下はあたしを信じて任せてくれた。ここでやらなきゃ女が廃るわ」

「は、はい」

「しっかり補助してね」


 解呪して首輪を浮かせながら首の部分を凍らせる。

 出血が少なくなるだろ。


「聖剣」

「はい」


 おお、すげえ。

 殿下の首がほとんど抵抗もなくスパッと切れるわ。

 さすが聖剣だけのことはある。

 呪いの首輪が澄んだ音を立てて床に落ちる。


「ハイヒール!」


 回復魔法をかけながら氷を溶かす。

 よおし、大成功!


「ぺちぺち。おーい、殿下朝ですよ。昼だけど」

「む……。ああ、爽やかな気分だ」

「首輪取れたよ。あ、今ならそう厄介でもないわ」


 どうも装着してると食い込んで宿主から魔力を取り込み、悪さをするというアイテムみたい。

 えらく面倒なものを作ったもんだなあ。


「聖女殿、感謝する。礼は後ほど」

「いや、聖女のお仕事としては上級回復魔法使っただけだよ。規定の料金払ってくれればお礼はいいんだ」

「それではあまりにも……」

「この首輪はガリオンのじっちゃんが調べたがるかもしれない。宮廷魔道士棟に持っていってあげるといい」

「うむ。しかし恐るべきはコーゾスの魔道技術。本当にコーゾスが作ったものならばだが」

「まー技術はね。でもマジでコーゾスが作ったのなら、長くないと思うよ」


 だって神の金属使ってこんな怪しげなもん作ってるんだもん。

 今回の件で神様が怒るかは何とも言えないけど、神様を蔑ろにしてることは確かだわ。

 いずれ報いを受けることは間違いない。

 コーゾスで不穏な災害や事件が起きるなら、黒幕だと決めつけていいと思う。


「では聖女殿、今度王宮の晩餐に招待しよう」

「やったあ! ごちそーだ!」


          ◇


 ――――――――――その日の夜、王宮にて。シェイマス王子視点。


「し、シェイマスお兄様! 本当によかったです……」


 妹カリナに泣かれた。


「無事呪いの首輪は外れたのですね?」

「ああ、この通りだ」


 カリナの顔が涙でぐしゃぐしゃじゃないか。

 顔を拭いてやったら笑った。


「わたくしは愚かでございました。怪しいアイテムをお兄様に着けてしまうなんて」

「洒落た意匠だったものな。いや、僕も勉強になった」


 まさか何年も前から侍女を間者として潜り込ませ、使い捨ててくるとは。

 我が国とコーゾスの関係が険悪だとは理解していたが、ここまで非情な手段を取るとは思わなかった。

 勉強になったというのは冗談ではなく、油断してはならぬものだと心に刻み込んだ。


「ガリオン宮廷魔道士長や聖女殿ならば、見ただけで危険なアイテムだと理解できるのかもしれないがな」

「王立学校で教えてくれればいいのに」

「……案外いいアイデアかもしれない」


 貴族ともなると命を狙われることもある。

 王立学校で護身術や毒物についての講義はあるが、呪術についてはない。

 今回ほど凝った呪いは滅多にないのだろう。

 しかし怪しいものは察知できるようになるべきだ。

 今後もコーゾスが使ってくるかもしれん。


「陛下に具申してみよう」

「でもさすがは聖女ムジカ様ですわ!」

「うん、恐れ入った」


 僕の首を切り離して首輪を外すとはな。

 思い切りがいい。

 そしてそれを実現できる技。

 さすがは世界唯一の聖女だ。


「ねえ、お兄様?」

「何だい?」

「お兄様は以前、聖女様のような裏表のない女性が好みだと仰っていたではありませんか」

「よく覚えているな」


 聖女ムジカ殿は『愛しのシェイマス殿下』と言ってくれた。

 聖女殿も僕に好意を持ってくれているのだろうか。

 聖女殿は誰にでも親切だからもう一つ意思がハッキリしないが、冗談ではないよな?

 『お嫁さんにしてくれ』とも言われたし。


「聖女様がお兄様の婚約者では、具合が悪いのですの?」

「……悪くない気はするんだ。ただ陛下の意向がわからないから」

「世界唯一の聖女ですのよ? お兄様の命の恩人ですし」


 確かに。

 聖女殿の太陽のような笑顔に、僕はどうしようもなく惹かれる。

 他にいない、とも感じるが……。


「聖女様がお兄様の婚約者だと、わたくしはとても嬉しいですわ」

「カリナは聖女殿と仲がいいものな」

「ええ。あのような方は他にいませんわ!」


 カリナもそう思うか。

 僕の婚約者候補ってどれくらい絞られているんだろうな?

 話が聞こえてこないからちょっとわからない。

 僕の意思を尊重するということなのかも。


「お父様に直訴しましょうよ。聖女様がいいですって」

「鼻で笑われたらどうしよう。ドキドキするなあ」 


          ◇


 ――――――――――後日談。


 フィルナス王国第三王子シェイマスと聖女ムジカの婚約が成立する。

 ムジカは躍り上がって喜んだ。

 が、王族との婚約は聖女を他国に流出させないための策として、元々考慮されていたことであった。

 呪いの首輪事件でシェイマスとムジカの距離が急接近したこともあり、いい機会であると判断されたのだ。


 聖女ムジカは貴族らしいマナーや言葉遣いとは無縁であったが、社交に困ることはなかった。

 何故なら意識の高い貴族の夫人・令嬢ほど聖神教会の慈善活動に参加していたから、知り合いが多かったのだ。

 ムジカの言動にも慣れていた。

 世界唯一の聖女で豊富な話題を持つムジカは、むしろ引っ張りだこだった。


 問題の呪いの首輪は、無力化された上で小さな神のシンボルに作り変えられ、信仰を集める一助となった。

 それとともに隣国コーゾスの凋落が目に見えて始まっていく。


「やっぱあの首輪はコーゾスで作られたものに間違いないね。コーゾスの聖神教徒に働きかけよう」


 神の金属で呪物を作ったため神の怒りを買っているという、ほぼ事実と思われる噂をコーゾスに流した。

 すると元々少なかったコーゾスの聖神教徒は、どんどんフィルナスに移住することになった。

 いよいよ神の怒りはコーゾスに集中する。

 災害と飢饉で不穏な情勢になっていく。


 音を上げたあるコーゾスの領主貴族がフィルナスに帰属することを申し出た。

 フィルナス貴族となるやいなや状況が好転すると、我も我もとフィルナスに服属したがった。

 コーゾス王家は内乱で滅びたが、状況はよくならず、民は苦しむ。

 結局国を挙げてフィルナスに臣従を誓った。


 シェイマスが新公爵として旧コーゾス領に赴く。

 もちろん聖女ムジカも伴ったので、大歓迎された。


 公爵シェイマスは語った。

 聖女ムジカの正直で天真爛漫なところが好きだと。

 ムジカはその天真爛漫さを存分に発揮し、領民に、国民に、夫に愛された。

 神の恩恵が新領まで含めたフィルナス全体に降り注ぐ。


 聖女ムジカは語った。

 公爵シェイマスの全てが好きだと。

 何言ってんだ、やってられねえと思った者もいたが、ニコニコ笑顔で神の使徒として働くムジカを嫌う者はいなかった。


 公爵シェイマスと聖女ムジカが仲睦まじく寄り添う様子は、平和と繁栄の象徴だったのだ。

 神に愛される時代が始まる。

「せ、聖女様あ!」

「どーしたカリナちゃん」

「わ、わたくしがシェイマスお兄様にとんでもないことをしてしまって……」

「カリナちゃんだって騙されたんじゃないか。あたしがいるから大丈夫だとゆーのに」

「聖女様あ!」

「もー可愛いんだからぎゅー」


 とても可愛い二人でした。

 

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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!
―◇―◇―◇―◇―◇―
― 新着の感想 ―
最後の最後にユーラシア成分が。
素晴らしいストーリーですね!ムジカの聖女としての力とシェイマスとの関係の進展が非常に魅力的に描かれています。特に、ムジカの解呪の技術や冷静な判断力、シェイマスの心情の変化、そして最後にコーゾスに対する…
・何ができるかできないかや神の判定に関する聖女の説明がわかりやすくて頭良さそう。この人王族になっても立派にやっていけるだろうな ・コーゾスが民主制ならともかく、そうでないのなら呪具を作ったのは王や皇帝…
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