フェリシアの魔法
「それで、フェリシアさんはどんな暗黒魔法が使えるのですか。」
僕は沈黙に耐えきれず、エドワード叔父様に聞いてしまった。
「そうだね。婚約者の君だし、フェリシアの魔法を知る権利はあるよね。」
そう言い、フェリシアを見る。
「お父様、私はセオ様を信用できると思います。」
「人見知りのフェリシアがそこまで言うんだ。セオくんくれぐれも内密にね。」
「大丈夫だ。セオは俺より賢いから、バラすことはしないだろう。」
「はい。約束いたします。」
しかし...賢いからバラさないというロジックは意味がわからない。でも全体的に見て口が硬い方ではあるよ。
「あまり大きな声で言えないが、フェリシアの暗黒魔法は欠損回復だ。」
「欠損回復?」
「例えば、手や足がなくなっても治癒魔法じゃ直せないだろう。それができるんだ。」
たしかにそれは大声で言えないような魔法だ。
治癒魔法はどんなに高レベルの魔法が使えても部位欠損なんかは治らない。
治癒魔法は僕の魔法の研究では、治癒能力を高める魔法だ。例えば擦り傷なんかも治癒魔法とかで治癒力を高めれば、すぐにギズ口が塞がる。しかし治癒力を高めているだけなので、人が手をなくしたら手が生えてこないのと同様、どんなに高レベルの治癒魔法を使えても手が生えてこない。
つまり革命的であり、同時に驚異的でもある。名高い騎士が腕をなくしてもすぐに手が生えてくるのだから。
「もちろんフェリシアにもデメリットがあるんだけどね。この能力が発言したのは、」
そう言ってフェリシアの過去の話を教えてもらった。
話によると、フェリシアが7歳の頃に他領の帰り道に盗賊に襲われ、護衛兼乳母の人が肩から下をなくしてしまったらしい。ただ、第二の母のような継母が腕をなくしたことで、当時学んで2年も立たずの治癒魔法を懸命にずっとかけ続けた。
もちろん傷が塞がるのと同時に、手が生えてこないとわかっていたので諦めさせようと思ったが、同行していた執事長が気の済むまでやらせようと止めなかったらしい。
ちなみに、治癒魔法は治癒力を高めているだけなので、治っている状態で魔法をかけ続けてもデメリットがないからだ。
まあ、そんなふうに見守っていると、だんだん腕がもとに戻ってきて、ついには腕が戻ったらしい。もちろん一緒にいた護衛や執事長もびっくりしたらしい。
しかし、問題はあった。この魔法を使ったあと、フェリシアは3日ほど目を覚まさなかったらしい。もちろん精神的なショックからかもしれないが、この魔法は自身の生きる力、つまり生命力を使用するからだろうと専門家に言われたらしい。
しかし、3日も目を覚まさないというのは本当に危険な魔法だ。この世界は点滴などがないので、目を覚まさないというのは衰弱につながる。この魔法が知れ渡って、連発でも使用者ならいつフェリシアが死ぬかもわからない。
「こんなところだね。」
「なるほど。それは貴重な能力ですね。」
「そうだね。だからこそ、秘密にしているんだ。」
「そしてさっきのセオ質問に答えるなら、親友の娘が安心して学校に通えるようお前と婚約させた。セオは俺より頭が良いし、学校で誰かを守るくらい実力はあると父として信用してるからな。」
「僕としても信頼できるローベルの息子になら任せられるしね。ところで、婚約といったものの君はフェリシアを守れるかい。」
エドワード叔父様は僕をじっと見つめる。
守るか。まあ、守るくらいはできる。僕には秘密の護衛もいるし。
ただ、聞きたいのはそういうことではないだろう。
命をかけてフェリシアとともに入れるかということだ。
フェリシアは可愛くて僕好みだ。多分大きくなれば、もっと好きになれる。
そして性格も朗らか。少しおとなしくはあるものの、逆に色々やりたいことのある僕にとっては、口酸っぱい人より良い。
それに打算的だが、彼女の暗黒魔法に興味がある。
それを考えれば答えは一つだ。
「命に変えてでもフェリシアさんをお守りします。」
僕がそう言うとフェリシアは、少し顔を赤らめ俯いた。
「さすがローベルの子だ。情熱的だね。ローベルもミラさんに告白...」
「おい、恥ずかしいからそのへんにしてくれ。まあ、セオもいいって言ってるし、フェリシア嬢もこの感じだったら婚約確定でいいだろう。」
「ああ、そうだね。セオくんよろしく頼むよ。」
「そうと決まれば。」
父はそう言って僕とフェリシアをパーティー会場に引きずり出す。
「お集まりの皆様。ご報告がございます。我が息子セオドラとベッドフォード家のフェリシア嬢がこの度婚約したことをご報告します。」
そう言って、パーティーの参加者から拍手が送られた。
父らしいが、なんというかもっと正式に合評したいと思った。
いや、誕生日パーティだからこれが正式なものか。
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パーティーが終った翌朝。
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「昨日はいいパーティーだったよ。」
ベッドフォード家は、朝に訪ねてきて帰りの挨拶に来ていた。
「神童さん、ミラをよろしく頼むわ。」
「ええ、お義母様。任せてください。」
「セオくんには苦労かけるかもしれないけどよろしくね。」
そう言ってベッドフォード夫妻は馬車に乗り、フェリシアだけが残される。
「フェリシアさん。また、学校で会いましょう。僕の」
「何言ってるんだ、セオ。婚約者なんだからこれからここに住むんだろうが。」
「…え?ええ~!」
いや、まだ婚約だよね。もう嫁ぎに来たの。確かに結婚確定の婚約だけどさ。
え、一緒に住んだらもう婚約じゃなくない。この世界って純潔主義だから、他家で過ごしたら女性は結婚できないだろう。
「何驚いているんだい。」
そう馬車の窓からエドワード叔父様が言う。まるで僕がおかしいみたいに。
「いったじゃないか、フェリシアをよろしくって。じゃあ、フェリシアまたね。」
「フェリシア、頑張るのよ。」
そう言うとベッドフォード夫妻は馬車を走らせた。
なんか、別れ方が淡白だ。もちろんフェリシアも覚悟を決めたような顔である。
「フェリシアさんは他領での生活不安じゃないの。」
「いいえ、セオ様がいるから安心できるだけで、不安はあります。」
そうフェリシアは僕を持ち上げる。ただ、顔や言動はガチで思っている感じだ。
確かに僕のほうが年上で、精神的にも大人っぽいから信頼されるのはわかるが、いつか簡単に騙されそうで怖い。
「セオの嫁なんだからセオがとりあえず面倒見なさい。」
そういい父は僕に耳打ちをした。
「ええ、わかりました。しかし、まず知りたいのですが、フェリシアさんも王立学校の魔道具科でいいのですか。」
「いや、そこら辺も任されているからな。」
「任されているなら、魔道具科ですよ。」
フェリシアの護衛であるからこそ、同じ学科に通わなければ意味がない。
カリキュラムが違うと授業が違い、授業で別れたときにフェリシアに危険があると行けないからだ。
「そうだが、まずフェリシア嬢が魔道具科に行けるかだ。フェリシアは本来姉と一緒に魔法科に行く予定だったんだ。」
「ええ、なんとなく予想はできてました。ということは2年前は落ちてしまったということですか。」
「そうだけど、フェリシア嬢の落ちた原因は、専門科目の筆記の点数が足りなかったことらしい。ただ、その歳は異様に試験が難しい年だったし、彼女の年齢も8歳とかだからしょうがないとは思う。」
王立学校の合格基準は、テストで8割と取るだけ。上位何人とか定員を設けているとかでない。だからこそテストの難易度で、入学の難易度が変化する。
試験は、歴史系の問題2割と計算・地理の問題1割、魔法に関する常識的な問題1割、専門科目6割でできている。つまり、専門科目ができないと終わりだ。
「エドワードに聞いたら、一応この2年間は魔法の専門科目を勉強しているらしいから、魔法科のほうが受かりそうだと思う。」
「確かにそうかも知れないですが、お父様は魔道具科の試験問題を見たことがないと思うのでいいますが、魔道具科の問題は正直簡単です。」
「それはお前がそう思っているだけじゃないか。」
「いいえ、本当に簡単で、そもそも毎年同じ問題が半分出ているんです。」
魔道具科は毎年半分は同じ問題を出している。もちろん、傾向だから今年は違うかもしれないが、魔道具科は学生不足だ。まあ、魔法に心得のある人じゃないと魔道具は作れないし、そういう人は魔法科に行くからだ。
「そうなのか。しかし、フェリシア嬢は魔道具について勉強してな...」
「あの、セオ様、ローベル様。何をお話されているのでしょうか。」
二人でずっとコソコソ話しているのを見て、フェリシアがしびれを切らして話しかけた。
「フェリシアさんって魔道具科に行くことになってもいいかって話です。」
「私が魔道具科ですか。学科はどこでもいいのですが、私は魔道具についての知識がありません。もともと魔法科に行くつもりで勉強してましたから。」
「大丈夫です。僕がいるので残りテストまで半年ないですが、魔法の知識があれば、1月あれば余裕です。」
「まあ、セオに任せるが、魔道具科に行けるっていうんだから頼むぞ。」
「ええ、任せてください。」
「とりあえずフェリシア嬢。セオに屋敷のこととか教えてもらってください。セオ、フェリシア嬢にここでの生活について教えなさい。」
「承知しました。ではフェリシアさん、お手を。」
僕はフェリシアの手を取り、屋敷について教えるため誘導をした。
人物
ミラ・フィリップス セオドラの母親。ただし、4年前に王都に向かう途中に行方不明となる。