突然の話
「話の結論としては、エドワードの次女のフェリシアと婚約することにした。」
「え、誰が?」
「誰って、セオ、お前以外いないだろ。」
「婚約...」
僕は急な婚約に驚きが隠せなかった。
たしかにこの世界の貴族は、小さい頃に婚約して結婚が多い。逆に恋愛結婚はほとんどない。父と母は恋愛結婚だが、これは本当に珍しいことだ。
しかし上位貴族の男は、いいと思う女性に婚約を取り付けて婚約が多く、今回の婚約は勝手に決められることに驚いていたのだ。
婚約はしたくない。そう思うのにも理由がある。
そもそも前世は彼女がいた事があったので、好きになれるかわからない人と結婚できるかわからない。女性の好みにうるさい僕とフェリシアさんが合うのかも問題だ。
他にも、僕は魔道具やこの世界にない機械の発明や制作、生産に現在力を入れている。女性に構う時間も惜しいくらいだ。
「婚約ですか。」
「もちろん、私だって自分の娘をどこかにやりたくないよ。でも、君の活躍をローベルから聞いたからね。」
「つい話しちゃってな。セオが作った揺れのない馬車とか、食材凍らせることのできる保管倉庫とかをセオが作ったって話たらこうなった。」
何話してるんだ。クソ父親。こうなるから僕が作ったことを内緒にしろって言っただろ。
しかし、婚約してしまった時点で断ることはできない。こっちのほうが爵位が上ならできるだろうが、相手は王の親戚の公爵家だ。
「今日のパーティーにも来るからその時娘を紹介するよ。」
「まあ、そういうことだ。もう部屋に戻っていいぞ。」
「え、ちょっと待って。まだ、その婚約者のことについて何も...」
「セオ、それはパーティまでのお楽しみだ。」
「私の娘だよ。期待だけしといてね。」
「ええ...」
何もフェリシアの情報を得ずに僕は客間を出た。
でも、たしかにエドワード叔父様は美形だし、期待だけしとこう。
「お話長かったですね。」
「そう?20分くらいだけど。」
アイラに言われてエントランスにあるからくり時計を見ると、実際は1時間くらい経っていた。
話は変わるが、この世界は地球と違う部分が魔法以外にもある。
まず、時間だ。1時間:4刻(大体60分)と変わらないが、1日:28時間、1年:345日と違いがある。
そして、この世界の衛星は2つある。ルナとイオというもので、ルナは月のように白く、イオは少し赤い。もちろんこの世界の人の考えは地球平面説が根本にあるので、衛星や太陽は、天空を動いていると考えている。
このように時間的感覚が違ったり、地球と違った空模様だが、科学技術は中世前期くらいで数学に関してはゼロの概念もない。ただ魔法があるおかげで、生活レベルは地球の中世前期とは違うだろう。
「一時間も話していたのか。」
「私も挨拶程度と聞いていたので、なにかセオドラ様が粗相をしたのか心配でした。」
「まさか、流石にそこら辺はわきまえているよ。まあ、話が長かったのは婚約の話があったんだよ。」
「婚約ってセオドラ様のですか。」
「ああ、そうだよ。ベッドフォード公爵の次女だってさ。なにか知ってる。」
僕はそう言って次女のフェリシアについてアイラに聞いた。
アイラは、18歳で王立学校の貴族科を卒業したナイトの称号を持つメイドであるから、貴族についてよく知っている。ちなみに貴族科は、貴族以外にも従者も通うことができるため、アイラはそこを卒業していた。
そのため貴族系の話は詳しく、実際に彼女からこの世界の歴史からこの国の歴史までを教えてもらっている。
「まさか、その年で婚約とは、セオドラ様は流石ですね。」
「冷やかしはいらないよ。」
「おっと、、、公爵様の次女ですね。一度お館様とベッドフォード家の誕生パーティに参加したときに見たことがあります。確かセオドラ様より2歳ほど年下で、噂ですが、暗黒魔法が使えると言われていますね。」
年下か。まず、僕の恋愛の許容範囲ないで良かった。僕は年上は好まないからね。
「へえ、ということは今は士官学校に?」
「いいえ、言ってないと把握してますよ。そもそも、公爵様の長女が婿を迎えるらしいので、彼女自身が王立学校にいかなくていいはずです。」
「そうか。でも仮に、暗黒魔法が使えるなら、大学に行くと良いと思うけど。逆に暗黒魔法が使えると噂があるからいかないのかもね。」
貴族号を持つものはいかなければならないとはいうが、実際継承権を放棄するなら行く必要もない。もちろん、多くの長子以外の子は継承権の有無というより、貴族のつながりを求めるため入学する人が多い。
「そうですね。確かに彼女からすれば行かないほうがいいですが、婚約となると王立学校に行く必要があるでしょうね。」
婚約となれば僕がフィリップス家長男なので、継承権のある男性と結婚・嫁に行くとなると、フェリシア自身も行かねばならない。このことを忘れていた。ならなぜ、学校に活かせたくないエドワード叔父様が僕と婚約しようと話を持ち出したのだろうか。
「たしかにな...。でも、そうなるとなぜ婚約を...。…ははーん、わかったよ。」
「わかったとは何がですか。」
「いや、邪推かもしれないけど。どうして婚約までこぎつけたかの理由がね。」
そう言って僕の考えをアイラに言った。
僕の考えでは、王立学校にフェリシアと一緒に行ってほしいのだろう。確かに公爵家の継承権は必要ないが、行かないとなるとその後の人生がいろいろハードモードだ。領地持ちの公爵家だから宮中などに安易に就職させれないし、だからといって学校に通わせられない暗黒魔法持ちものだと邪推されると、変に公爵家に置いとくと王家からの不服を買うだろう。
つまり、僕にはフェリシアの婚約者兼護衛として一緒に行くつもりだ。
もちろん、辻褄が合わないところもある。なぜ婚約者の僕でなく、単純に護衛として誰か入学させなかったのかだ。公爵家領ともなれば護衛として学校に一緒にいかせる人材がいるはずだ。他にもなぜ長女のステラと一緒に王立学校に行かせなかったのか。士官学校は、入学の歳と卒業の年が決まっているからステラと行くのは無理だ。しかし、王立学校は年齢制限がないので、4歳下でもテストさえ合格できれば学校に行けるはずだ。
「こんな感じで矛盾点はあるんだよね。」
「それは簡単ですよ。まず、フェリシア様はテストの点数が足りなかったんです。だから姉と一緒に行けなかった。実際、9歳じゃあのテスト難しいですし。」
「そうかな。問題を聞いた感じ、どの学科も難しそうではないように感じたけど。」
「それは、セオドラ様が天才なだけです。私も結構試験対策には苦労しましたし。」
確かに、体は子ども、頭脳は大人だから、僕基準で言うのもおかしいか。
「まあ、確かに落ちたと仮定しても、信頼できる護衛といっしょに学校に行かせればいい気がするんだけど。」
「それは難しいでしょうね。そもそも護衛となると強くないといけないですが、フェリシア様は女性ですので寝食をともにすることを考えると護衛は女性でないといけない。」
「確かに強くて、教養のある女性はたしかに少ないだろうな。そういう人はアイラのように学校を卒業しているだろうし。」
「はい。卒業したら通えないという王立学校の方針がなければよかったのですがね。」
考えてみると色々むずかしい点がある。そもそも護衛の心得がある女性が少ない。それは女性は男性見守られるべきなど、この世界にあるジェンダーバイアスが色濃く残っているからだ。もちろん男尊女卑の文化もあるので、貴族以外で勉強のできる女性も少ない。
「それに何よりの理由があるじゃないですか。」
「へ?何かあったかな。」
「セオドア様はイケメンで、魔法の才能も抜群。様々な魔道具の開発でお金持ち。伯爵という上位貴族。そして自身で孤児院を運営している慈愛に満ちたお方。他にも…」
「もういい。わかった。」
「なぜですか。まだ、全然ありますよ。」
「そこまで言われると恥ずかしい。」
僕はそう言ってアイラの話を遮った。
人物
〇セオドラ・フィリップス(セオ):5歳児の伯爵家長男。もとは地球の理系大学生であった。
〇ロベール・フィリップス:フィリップス伯爵家の現領主。
〇エドワード・ベッドフォード:父、ローベルの旧友。召喚魔法の名家。
〇ステラ・ベッドフォード:エドワードの娘。聖女と呼ばれている。