新たな人生
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
電車事故の出来事から5年。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「セオドラ様、朝ですよ。」
ベッドの横にいる女性は、20歳前後のメイド姿で寝ている僕を起こした。
彼女は小さい頃からのメイドであるアイラという22歳の既婚者で当家の執事長の孫だ。
「あーーむ。少しだけ。もう少ししたら起きるから。」
「何をおっしゃってるんですか。今日は大事なパーティーがあるんですよ。セオドラ様の12歳の誕生パーティを行うんですから、しっかり準備してください。」
「わかったよー。……あれから、12年か。」
あの後の出来事として、僕は新たな命をもらったことがわかった。いわゆる転生だ。
転生と言ったら、生まれ変わって、前世と関係のない新たな人生を歩むことだが、僕の場合は記憶が残っている。
生まれてから今になってわかっている状況は、転生したことと、この世界が地球でないことだ。
なぜ、ここが地球でないかは、明らかな違いがこの世界にある。
この世界には”魔法”があるからだ。
初めて魔法を見たのは、1歳のころ。
記憶は大学生なので、階段を一人で登っていると、幼児の筋力からか階段を踏み外し、僕は骨折をした。
その時、母親に回復の魔法によって、全回復とはいかないものの痛みを減らしてもらった。骨折はしているはずなのに、ほとんど治りかけていた。そして、2日くらいしてほぼ全開したのだ。この出来事から驚きと同時にここが地球ではないことも悟った。
魔法とは、物理で証明できないようなできごと。現代科学で証明できないこと。
僕は、その出来事から魔法を学びたい、知りたいという欲求から2歳から父に頼んで魔法を学んだ。
僕は、セオドラ・フィリップスという貴族に生まれ変わり、今日で12歳の誕生日となる。
今日は、貴族として誕生パーティを行うため、朝から早く起きている。あいさつや自己紹介の練習と、着替えを行うためだ。
「セオドラ様。着替えを行った後に、客間にベッドフォード侯爵様がお見えになっておりますのでご挨拶ください。お館様のご友人でありますが、くれぐれも失礼のないように。」
「早いね。まだ、パーティーの用意もできてないのに。それでお父様の友人?」
「はい。昔のガリア国立学校からの仲だそうです。とはいえ、侯爵家ですので、昨日教えたあいさつでお願いします。」
「ああ、わかっているよ。」
そう返事をし、中世貴族といえるような無駄に裾の長いジャケットを着て、下にある客間に向かった。
「しかし、公爵家か。あまり自分より上の立場の人と話さないから緊張する。」
僕の家は、貴族とはいえ伯爵家。上級貴族とはいえ、爵位は侯爵のほうが上だ。さすがに発言に注意せねばと思った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
着替え終え、二階の子供部屋から一回の客間、応接室に向かう。
”トントン”
「お館様、セオドラ様をお連れしました。」
「ああ、入りなさい。」
父の言葉を聞き、僕はゆっくりと部屋に入る。
自分より身分が上の貴族に会うのは久しぶりなので緊張しながら部屋に入ると、父親と父親より見た目が若そうな男が向かい合って座っていた。
「お初にお目にかかります。私はセオドラ・フィリップスと申します。今日は、遠路はるばる私の誕生会に来ていただきありがとうございます。」
「おお、君がローベルのご子息か。わが領でもフィリップス家の神童と聞いているよ。挨拶が遅れたけど、私はエドワード・ベッドフォード。エドワードおじさんとでもフランクに読んでくれ。」
そういって彼は、僕に自己紹介をした。彼のフランクさは上位貴族としてはあまりなく、僕自身も緊張が解けると同時に、神童といわれていることに少し恥ずかしさを覚えた。
実際、僕の周りでは、前世の記憶によりほかの幼児に比べ、早く立ち上がったり、言葉を話せたり、この世界にないものを発明したりして少し有名になっている自覚はあるが、神童と言われるのは恥ずかしくて不本意であった。
「セオ、こいつは私が学校に通ってた頃の友人で、今では親友だ。こいつの言う通り、おじさんでもこいつでも好きに呼べばいい。」
「おい、それはないだろうよ。まあ、呼びやすいように読んでくれていい。」
父とエドワード様の話し方から、本当に旧友なのであろう。話し方も身分の差があれど、一般的な友達みたいだ。
しかし、さすがにおじさんは失礼だろう。それに、見た目は30歳言ってるかという見た目だ。それほど若々しいし、父が老けすぎて見えるくらいだ。
とはいえ、自分より年上の人なのでエドワード叔父様と呼ぼう。
「わかりました。では、エドワード叔父様と呼ばせていただきます。」
「うん、少し距離感を感じるが…。まあ、それは置いといて、今日は君に話があるんだ。」
エドワードはそういって父に目配せをし、父は隣に座るよう僕に言った。
「お父様、挨拶だけってアイラから聞いたのですが。」
「ああ、挨拶だけと思ったが、二人でセオのことを話しているうちに、セオに内緒で勝手に決めたことがあってな。」
「セオ君、ローベルから聞いたが、魔法が使えるんだってね。それも5属性をすべてでレベル7の魔法が使えるとはね。」
「ええ...」
僕は少し前のめりで興奮しているような叔父様に少し引いたように返事をした。
実際、初めて魔法を見てから理系学生の僕は、その古典力学や現代物理学を無視するようなものに興味を抱き、幼少ながらお父様に頼んで魔法の勉強をさせてもらった。現在も10年間くらいイアン先生という外部の魔法講師に教えてもらっている。
ここで魔法とは、攻撃魔法、防御魔法、浮遊魔法、治癒魔法、強化魔法、暗黒魔法の6種類ある。この世界ではこの6種類を属性というのだが、暗黒魔法以外の5属性が使える事になっている。"なっている"というのは実際暗黒魔が使えるのだが、この暗黒魔法とは、5つの属性に当てはまらないものであり、基本使える術者が少なく、使えると公表すると面倒なことになるとイアン先生に聞かされているため、今現在も隠しているからだ。
また、魔法の強さのレベルという概念がある。今はレベル7の魔法が使えるが、これは新人の魔法士が平均的に使える強さが5と言われているので、18くらいの新人魔法士をも上回っている。ちなみに先生はレベル9まで使えるらしいからまだまだと思うが、12歳が18歳の大人と同じ強さを使えることも神童と呼ばれる要因だ。
ただこれに関しては、何でも成長できる子供の時期に魔法に触れたという才能でも努力でもない、前世の記憶というチートによってのたまものである。
「しかし、5属性も使えるとはね。」
「そうは言うが、お前のところの上の娘も、使える属性は4つといえレベル5の以上使えて、治癒魔法なんかレベル8の魔法が使えると聞いたぞ。」
「まあな。うちの娘のステラは、5年前と遅くから教えたのだけど覚えが早くてな。まあ、セオ君より2歳年上だけど、ここまで才能があるとは思わなくて、もっと早くから教えたらと後悔してるさ。」
「5年でレベル8とは天才ですね。」
「はは、セオくんに言われるのは少しこそばゆいが、まあ確かにステラは天才だな。」
僕でさえ、初めてレベル5の魔法が使うのに5年かかった。それよりも速いスピードで成長しているのだから、才能というほかないだろう。
「まあ、ステラは去年からガリア王立学校の魔法科で魔法を学んでいるよ。セオくんも来年行くだろう。」
「はい、来年の入学試験に受かったら行く予定です。」
ガリア王立学校とは、この国の教育機関である。ガリア王立学校は開校から150年とこの国で一番の歴史を持つ学校であり、貴族号を持つものは必ずいかなければならない。
必ずいかなければならないと言ったものの、多くの人が9歳から12歳までの三年間士官学校に行っているから、エスカレーター式で多くの貴族は試験無しで入れる。僕は、父に相談して士官学校には入らなかった。
ちなみにガリア王立学校は、貴族科、魔法科、医学科、魔道具科、自然学科の総合学校であり、この国では一番の教育機関である。この大学を卒業すると、貴族でも平民でもナイトの称号が与えられるのだ。
また、教会やギルドが運営している学校と違って研究資金がたくさんあり、貴族以外は授業料が無料であるのも魅力だ。そのため、平民が試験受けるために入学倍率が高いためので、多くの貴族は安定を取って士官学校に入学するのだ。
「セオくんには、試験なんて余裕でしょう。」
「そうだろうな。だがな、セオが魔道具科にいくとか言い出すんだよ。」
「それは、前に了承してもらったでしょう。」
「まあまあ、ローベルもセオくんも落ち着いて。…しかしなあ、魔法の才能があるのに花の魔法科にいかないとはね。」
王立学校は5学科あるが、貴族は基本、花形の貴族科と魔法科にいく。魔法が使えるものは魔法科、剣や軍略の才能があるものは貴族科にいき、貴族以外が他の学科に行くのは一年に一人くらいだろう。
しかし僕は工学部に入学したエンジニアだ。魔道具科の一択だろう。
「本当にそう思うよな。セオ、今から変えてもいいんだぞ。こいつに言えば、試験を受ける学科なんて変えられるんだから。」
「その話はもうしたでしょう。それよりお父様、勝手に決めたこととはなんですか。」
話が平行線になるため、先程聞いた気になる発現について言及する。
「ああ、そうだった。いい話があるんだ。」
父はそう言って不敵の笑みを見せた。
人物
〇セオドラ・フィリップス(セオ):12歳児の伯爵家長男。もとは地球の理系大学生であった。
〇ロベール・フィリップス:フィリップス伯爵家の現領主。
〇アイラ:セオのお世話係。22歳の既婚女性。
〇イアン・マクミラン:セオの魔法の先生。魔法以外にもいろいろなことを教えている。レベル9の魔法が使える。
〇エドワード・ベッドフォード:父、ローベルの旧友。治癒魔法の名家。