表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/19

第8話 迎えた朝

 言い争いの末、エルが一歩も譲らなかった為に妥協するはめになった。

 そう、つまりこのベッドを二人で使うということだ。


「言っとくけど、手なんて出してきたらただじゃ済まさないから」


「安心しろよ。前のパーティの時なんて、女は貧乳しかいないからって理由で大部屋になった時もグースカしてた俺だぜ?」


「……それはそれで心配になるわね、アンタが」


「?」


 そこまで言ってのけるなら筋金入りだわ。ある意味で安心だけど……、それはそれでどうなのよ?



 それは置いといて。


 近くにあった銭湯で汗をきれいに流して、パジャマは無いからラフな格好。

 それから戻って来た私達はその日をベッドの中で終える事にした。


「お休みぃ」


「はいはい、お休みなさいな」


 ………………

 …………


「……ぅうん。イマイチ寝付きが悪いなぁ、今日」


 時計は深夜の二時。当然だけど、薄暗い。


 里を飛び出して、初めての自分の部屋以外の就寝は、知らず知らずの内にストレスになっていたんだろうか?

 でも隣で眠る男、エルは私とは対象的にぐっすりと夢の中へと旅立っていた。


 確かにこういうところはベテラン……だろう? うん。

 冒険者として、寝る場所を問わない。そういうスキルはちょっとうらやま。私も身に着けなきゃ身が持たない。


 なんとなく、エルの頬に指を立て、ぷにぷにと押してみる。


「あらら、ホントに起きないわね。コイツが静かなのってこんな時だけなのかしら?」


 幾度押していると、エルから寝言が飛び出した。


「……ふへへ、ボインちゃんが一杯だよぉ」


「夢の中でもこの調子……。ホント、ある意味羨ましいくらいね」


 仕方ない。コイツが寝ている間に寝相で少し乱れた胸元を直してあげた。


 そこで傍と気づく。


(そういえば、私は寝る時には抱きまくらを抱いて寝ていたけど、冒険に伴い家に置いてきていた。それも、寝付けない原因なのかもしれない。荷物がかさばるから持ってこれないんだけどさ。とはいえ、ここにはそんなものは無いし……)


 だが、代わりになる……かもしれないものなら眼の前にあった。


(今日は苦労掛けさせられっぱなしだったし、少しは返してもらわないと)


 エルの腕に自分の体を寄せると、そのまま抱きつく体勢を取る。

 冒険を生業にしているもの特有の筋肉と、しかし就寝中故の脱力が、硬過ぎず柔らか過ぎず。


 意外にも実家に置いてきた抱きまくらと見事に一致していたのだ。


(これなら眠れそう……)



 実際、その状態から深い眠りにつくまで数秒と掛かりなかった。


 …………

 ………………


「……ほ~ら起きなさい。いつまで寝てるの?」


「う~ん、勘弁してくれよ母ちゃん。昨日は美女に揉みくちゃにされてへとへとなんだよぉ」


「誰が母ちゃんよ! いつまでも夢見てんじゃない、の!!」


「ぐはっ!!?」


 朝、いつまでも起きない馬鹿に強烈な一撃をお見舞いした。


 勢いでホテルのベッドの下に転がり落ちるエル。そして起き上がる。つまり、コイツの目線じゃ床の上で目を覚ました事になる。


(あれ? 俺こんなに寝相悪かったっけ?)


「アンタって起こされないといつまでも眠ってるワケ? 今までどうしてたのよ?」


「前のパーティじゃ誰かが起こしてくれてたんだよ。ほら俺ってさ、寝付きの良さが特技みたいのところあるし、数少ない母ちゃんから褒められてたポイントだから。あんたは本当に赤ん坊の頃から寝付きだけはいいってさ!」


「それ褒められてんの? まあ良いわ、とにかく早く支度してよ。もうチェックアウトの時間よ」


「はいよー」


 とか言いながらも、エルは寝ぼけ眼を擦りながら、欠伸と共に出ていく準備を……うん?


「ちょっと、立ったまま寝ないでよね?!」


「………………ぐぅ」


「ちょっと! 寝ないでって言ってんでしょ!」


「ぐぅ」


「ぐぅじゃなくて……こら!!」


「ぐぅ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ