第8話 迎えた朝
言い争いの末、エルが一歩も譲らなかった為に妥協するはめになった。
そう、つまりこのベッドを二人で使うということだ。
「言っとくけど、手なんて出してきたらただじゃ済まさないから」
「安心しろよ。前のパーティの時なんて、女は貧乳しかいないからって理由で大部屋になった時もグースカしてた俺だぜ?」
「……それはそれで心配になるわね、アンタが」
「?」
そこまで言ってのけるなら筋金入りだわ。ある意味で安心だけど……、それはそれでどうなのよ?
それは置いといて。
近くにあった銭湯で汗をきれいに流して、パジャマは無いからラフな格好。
それから戻って来た私達はその日をベッドの中で終える事にした。
「お休みぃ」
「はいはい、お休みなさいな」
………………
…………
「……ぅうん。イマイチ寝付きが悪いなぁ、今日」
時計は深夜の二時。当然だけど、薄暗い。
里を飛び出して、初めての自分の部屋以外の就寝は、知らず知らずの内にストレスになっていたんだろうか?
でも隣で眠る男、エルは私とは対象的にぐっすりと夢の中へと旅立っていた。
確かにこういうところはベテラン……だろう? うん。
冒険者として、寝る場所を問わない。そういうスキルはちょっとうらやま。私も身に着けなきゃ身が持たない。
なんとなく、エルの頬に指を立て、ぷにぷにと押してみる。
「あらら、ホントに起きないわね。コイツが静かなのってこんな時だけなのかしら?」
幾度押していると、エルから寝言が飛び出した。
「……ふへへ、ボインちゃんが一杯だよぉ」
「夢の中でもこの調子……。ホント、ある意味羨ましいくらいね」
仕方ない。コイツが寝ている間に寝相で少し乱れた胸元を直してあげた。
そこで傍と気づく。
(そういえば、私は寝る時には抱きまくらを抱いて寝ていたけど、冒険に伴い家に置いてきていた。それも、寝付けない原因なのかもしれない。荷物がかさばるから持ってこれないんだけどさ。とはいえ、ここにはそんなものは無いし……)
だが、代わりになる……かもしれないものなら眼の前にあった。
(今日は苦労掛けさせられっぱなしだったし、少しは返してもらわないと)
エルの腕に自分の体を寄せると、そのまま抱きつく体勢を取る。
冒険を生業にしているもの特有の筋肉と、しかし就寝中故の脱力が、硬過ぎず柔らか過ぎず。
意外にも実家に置いてきた抱きまくらと見事に一致していたのだ。
(これなら眠れそう……)
実際、その状態から深い眠りにつくまで数秒と掛かりなかった。
…………
………………
「……ほ~ら起きなさい。いつまで寝てるの?」
「う~ん、勘弁してくれよ母ちゃん。昨日は美女に揉みくちゃにされてへとへとなんだよぉ」
「誰が母ちゃんよ! いつまでも夢見てんじゃない、の!!」
「ぐはっ!!?」
朝、いつまでも起きない馬鹿に強烈な一撃をお見舞いした。
勢いでホテルのベッドの下に転がり落ちるエル。そして起き上がる。つまり、コイツの目線じゃ床の上で目を覚ました事になる。
(あれ? 俺こんなに寝相悪かったっけ?)
「アンタって起こされないといつまでも眠ってるワケ? 今までどうしてたのよ?」
「前のパーティじゃ誰かが起こしてくれてたんだよ。ほら俺ってさ、寝付きの良さが特技みたいのところあるし、数少ない母ちゃんから褒められてたポイントだから。あんたは本当に赤ん坊の頃から寝付きだけはいいってさ!」
「それ褒められてんの? まあ良いわ、とにかく早く支度してよ。もうチェックアウトの時間よ」
「はいよー」
とか言いながらも、エルは寝ぼけ眼を擦りながら、欠伸と共に出ていく準備を……うん?
「ちょっと、立ったまま寝ないでよね?!」
「………………ぐぅ」
「ちょっと! 寝ないでって言ってんでしょ!」
「ぐぅ」
「ぐぅじゃなくて……こら!!」
「ぐぅ」




