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第7話 ホっと一宿

「はい。では二名様でのご登録ということでよろしいでしょうか?」


「ええ勿論。あと、登録ついでにどうです? 貴女の人生にも僕を登録して頂く、というのは?」


「はぁ……」


「な、何やってんのよアンタ!? 恥ずかしい事してんじゃない!!」


「おい離せ!? 離せよ!! ああ、遠のいて行く」


 馬鹿の馬鹿なナンパ術から、困惑した表情を受付のお姉さんを助けるために耳を引っぱってカウンターの前からどかす。


 まったく、一目見てすぐナンパって……この男の行動はなんでここまで煩悩と直結してるのか。


 そりゃあ、顔も美人だし、スタイルもいいし、ドコとは言わないけど大きい。

 男の子なら惹かれるのもわかるけど、やり方ってもんがなって無さ過ぎるのよ。


「このアマァ! そんな了見だからテメェの胸はいつまでたっても成長しないんだよ!!」


「口を開けば憎まれ口のアンタだって相当成長して無いでしょうが!!」


 コイツの幼少期なんか知らないけど、間違いなく昔からコイツはこうだ。疑いの余地も無い。


「ギルドについて早々、受付の女性があまりにも美しく、そして見るからに立派なものを胸部にお持ちだった……。わかるか? これは口説かにゃ男が廃れると思い実行……したらこの様よ! この無念が――」


「わかる訳ないでしょ! もういい加減にしてよアンタ。いい歳こいてみっともないったらありゃしない」


「男という生き物に、何よりも求められるのは決断力だ。そして俺は決断した。口説かないとダメだと、口説かなければ美人に対して失礼にあたると。俺の中の紳士が切実に訴えてきたんだよ!」


「ドブ川にでも捨ててきなさいそんなの。……アンタはここに居なさい、私が手続き済ませるから」


「あっ! まだ話は終わってねぇぞ!」


 アホを抜かすエルを置いて、私は再び受付嬢の元へと戻って行く。

 もう、ここに来て早々に疲れたわ……。


「あっ、改めてお願いしますね」


「はい、こちらが冒険者証になります。手数料としてお一人様二千ペレルをいただきますが、よろしいでしょうか?」


「はい。……はい、じゃあこれでお願いします」


「確認させて頂きます。……はいではこちら、お受け取りを」


「ありがとうございます」


 愛想のいいお姉さんから二枚分のカードを受け取り、勝手にふてくされているエルの元へ。

 子供かっての。


「はい、これアンタの。……ていうか、アンタ自分の分紛失したってどういう事よ? 結局アタシがアンタの分まで払ってるし」


「いや~ゴチです」


「ぶっ飛ばすわよ」


「なんだよ、ちょっとしたお茶目じゃねぇか。そうカッカしなさんな」


 コイツ、本当にこの道の先輩なの?

 そりゃ再発行が許可されたんだから先輩なのは間違いないんでしょうけど、なんか納得がいかない。


 一年とちょっとって言ってたけど、こんないい加減な性格でよくモンスター相手に生き延びてこれたもんだ。


(金だって装備ですっからかんだし。その財布だって夜遊び用のへそくりだったし。まったく、昨日の事が無けりゃあな。カードも置いてきちまったし。ま、そんな俺の心情など当然知るはずもないから、やっと冒険者になれたせいか妙に浮ついているようにも見えるな。俺にもこんな時期あったなぁ。…………あれ、あったよな? いやあった、あったさ!!)


「アンタどうしたの? さっきからコロコロ表情変えちゃって」


「いや、ちょっと、アイデンティティについての考察を……」


「は?」


 そんな事で悩む程にいろんな物でも経験してきたのかしら? 全っ然そんなヤツには見えないけど。

 まあ、いいわ。


 エルも立ち直ったのか、ギルドの掲示板に目を向けていた。

 やっぱり、なんだかんだコイツも冒険者ってことね。貼られている依頼が気になるんだ。


「へぇ、フロア掃除が一時間あたり八二〇ペレルねぇ。結構いいな」


「何バイトの求人なんて見てんのよ! 私たちは冒険者でしょうが!」


 ちょっと期待したらすぐこれだ。


 ◇◇◇


 ギルドでの用事を済ませたら、外はすっかり日が落ちていた。

 ご飯を食べて、買い物して、それから登録までしてたら、確かにそうなるか。

 一日ってのは短いもんだ。


 そんなこんなで宿探し。

 とはいえ、この時間から駆け込みで泊まれる宿なんて大した選択肢があるわけでもなく……。


 結局、私たちが見つけたのは……。


「単身者向けのビジネスホテルってか。まぁカプセルじゃないだけましだな」


 そう、エルが言うようにお一人様の宿。

 出張で頑張るパパさんとかが利用するような、寝れれば良いといった感じの非常にシンプルなホテル。

 そこそこ狭い部屋にベッドとテーブルだけ。あと湯沸かし器。


 でも、そんな所でも私は利用したことが無いからちょっとワクワク感あるわね。

 これも都会っぽいと言えば都会っぽいし。


「あんまり文句を言うんじゃないわよ、結局ここも私のお金なんだから。にしてもベッドはシングル一つかぁ」


「いやぁ悪いな。ま、これも年功序列ってやつ? せめて毛布の一枚位は貸してやるからさ」


「なんでアンタがベッドを占領することになってんのよ? 私のお金なんだからアンタが床でしょうが!」


「お、お前……。だってそんな、床になんて寝たら一晩で肩も腰もガチガチになっちゃうじゃないか」


「私なら良いってワケ?!」

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