第5話 パーティ結成
「さてと、腹ごしらえも済んだことだし、これでおさらばだな。……親切心でひとつだけ忠告しておくがな、この街は都会寄りつったってああいう手合も珍しくない。貧乳好きの物好きな彼氏でも作って一緒に行動することをオススメするぜ。じゃあな、あば」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」
「あん?」
席を立ち上がりかけた男に待ったをかける。
助けてもらったとはいえ、このまま帰らせるのも正直シャクだ。
どうせだと思って、引き留める事にした。
「アンタさ、気にならない?」
「何が?」
「私がさっきのハゲゴリラに言い寄られた理由よ」
「全ッ然。しいて言うなら、やっぱ世の中には好き者っているんだなって」
一々憎まれ口叩いて、ホントいい性格してるわ。
「おおきなお世話よ! そうじゃなくて……ああもう! ハッキリ言うけど、今パーティのメンバーを募集してるの。それでさ、アンタ今フリー?」
そう、この街での懸念の一つ。
何だかんだ、この男の身のこなしは並みじゃない……ような気がする。
体格差のある相手に余裕の立ち回りしていたし、掘り出し物の可能性もあるわけで。
本来ならもう少し先延ばしにする予定だったけど、まあいいでしょ。
だが、この目の前の男。あからさまにめんどくさそうなものを見る目に切り替えて、嫌々こっちを見て来る。
コイツ、逃げるつもりだ。
「フリーかと言われれば今ちょうど偶然にも奇跡的に隣は開いているが……。悪いな、俺の隣は飛び切りのバストを持った包容力に溢れた大人の女性専用なんだ。だが、この俺に目をつけたのはいいセンスしてると思う。そのセンスを大事にして仲間探しに励んでくれ。じゃあ」
「つまりアンタ一人ぼっちなわけね? じゃあ丁度いいでしょ。馬鹿みたいに私のお金でたらふく食べたんだから、少し位融通効かせても罰は当たらないんじゃない?」
「ぼっちで悪かったな。それにそんな事言ったってねぇ、大体俺はお前の名前も知らないワケだし……、いややっぱ知りたくない。僕たちの関係はここできっぱりと終わらせるべきなんだ、今この瞬間から赤の他人になるべきなんだ」
「つまり私のことを知ったらいいわけね? 私の名前は」
「あああああああ!!!」
男は急いで耳を塞ぎ、大声を出して聞こえないようにした。
(何歳なのよアンタ!)
私は耳を塞いだ男の腕を無理矢理掴み、そして耳から剥がす。これでも力にはちょっとした自慢があるのよ。
「子供みたいなことしてんじゃないわよ! いい? 私の名前は……!」
というわけで、私は自分の身の上を聞かせた。
もはや消したい過去となった婚約の事は話さなかったけど、それ以外はある程度。
まず私の名前、ラゼク・サトーエン。
そして獣人族はジャレストフォルの血族で、特徴的な猫耳と尻尾を持つ。
そう、この髪や耳と同じでツヤのある黒い尻尾は結構な自慢。手入れが大変なのよ、意外と。
それに、髪といえば里に居る頃は腰まであったけど……今は心機一転。
バッサリ切ってセミディにしてある。これはこれでちょっと大人っぽくて気に入ってる。この毛先の外ハネな感じとか、結構カッコイイじゃん。
ま、それは置いといて。
つい先日、里からこの街にやってきたばかりだということ。
そして、今は冒険者として生計を立てようとしている最中だということ。
私の里じゃ十八歳を迎えると成人の儀として、外に出て自分の実力に見合った仕事をこなすことが義務付けられている。そこで一定の功績を認められるまでは里に戻る事が出来無いことまで。
ま、最後の部分は婚約してたら関係無かったんだけどね。
私を含め、里の若い子達は十八までには恋人を作るのがほとんど。
恋愛がしたいのが四割、掟を守るのがめんどくさいのが六割って感じ。
……それでも、あんなことがあるまでは恋に本気だったのに。
(はぁ、今どきこんな因習が残ってるとはね。これだから田舎ってやつは)
「アンタさ、今なんか失礼なこと考えてない?」
「……そ、それはお前の自意識過剰だよ。牛乳飲みな? カルシウムが足りてないからつまんない被害妄想に囚われるんだ。ついでに一抹の望みをかけて胸を大きくしてみるんだな」
「なんですって!!?」
まったく口の減らない男ね! この口からは悪口しか出ないの?
「っち、仕方ねぇ。都会のように雄大な心で受け止めて上げようじゃないか。感謝しろよ。俺がお前の胸板並に情の厚い男な事をよ」
「いちいち憎まれ口叩かなきゃ気が済まないワケ?!」