第2話 いきなり遭遇?
と、いうわけで。
いくつものバスを乗り継ぎ、この街へとやってきたわ。
道行く人の波。背の高い建物。路面を走る電車。
何もかも故郷には無いから新鮮だ。
この国で五番目くらいに栄えた街、との評判だけど……さてこれからどうしようか?
勢いよく飛び出してきたはいいものの、じゃあこの先具体的な考えがあるというわけじゃない。
目的はある。けれどその目的のためにどうすればいいのか……それを深く考えて無かったのよね。
だからと言って戻るつもりは無い。二股野郎の顔を思い出して腹が立つから。
とはいえ、困ってるという現実もあるわけで。
「とりあえずは……やっぱりギルド、かしら?」
冒険者として生計を立てようとするなら、まずは登録から始めないと。
始めは低賃金な仕事しか受けられないでしょうけど、コツコツお金を貯めるのもいい経験になるでしょう。
令嬢としての教育を受けて来た身だけれど、だからこそ贅沢はもう堪能した。
これからの人生、世知辛さも知っていかないとね。
この身一つでやり直すと決めた以上は、キッチリとやってみせるわ!
……でも、折角ならパーティを組んでくれる人とは知り合いたい。
ソロで頑張るのもいいけど、初心者特有の全能感に浸って痛い目を見る。そんな風にはなりたくないしね。
でもま、それは今すぐじゃなくていい。私はまだ冒険者の入り口に片足すら入れて無いからね。
「それじゃ、張り切っていきましょうか」
気合を入れる声を自分に掛け、案内所で貰ったタウンマップを片手に街中を歩く。
「ええっと、アレがそこにあって。ソレが……」
地理を頭に入れながら歩いていると、人通りの少ない路地に足を踏み入れていた。
(大通りから少し離れると人が居なくなるのね。都会といっても、どにでも人が居る訳じゃないんだ……)
何気ない知識だけど、それでも私にとってはやっぱり新鮮だった。
私の故郷ははっきり言ってしまえば田舎だから、出会う人は知り合いばかり。
偶に知らない人が居ても、大抵は観光客だ。
賑やかさは無いけれど、あの何とも言えない雰囲気は好き。
でも今は、この街で生きていこうっていうんだから。この街の雰囲気ってヤツを早く掴まないとね。
そんな事を考えてる時だった、見知らぬ男の声が聞こえる。
「…………はぁ」
ため息をつきながら、目の前からトボトボ歩いてくる一人の男。路地の向こう側から来たのかしら?
背が結構高い、百九十近くかな? 顔は……落ち込んでるせいか冴えない感じだけど、決してカッコよくないわけじゃない。
そんな男が……。
「……はぁ~」
もう一度出しながらこちらに来る。
来るというより、こっちに気付いてない感じだ。
でもなんかさっきよりため息が長くなってない?
「……はぁぁぁ」
三度目。
うん、明らかに長くなってる。
「……はぁぁぁぁ」
わかった、コイツため息をついてる自分に酔ってるんだ。
ため息のつき方からわざとらしさも感じる。落ち込んではいるけど、そんな自分に酔いしれてるわね。
「はぁ……「もう! うっとうしいわね!!」……あん?」
思わず、ちょっとイラついてツッコんでしまった。
しまった、とも思ったけれど、言ってしまったものはもう仕方ない。
謝って私も立ち去りましょう。
と思っていたけれど、男がじ~っと見て来るのが気になる。
そりゃ、いきなり大声を出してしまった私を見るのもわかるけど……なんか視線に違和感があるような。
「な、何よ? 一体どこ見て……」
うん? ……はっ!?
男の目がどこに行ってるのかに気付き、咄嗟に胸を押さえた。
「ちょっと!? 初対面でいきなりそういう事するわけ?! 大声出した私も悪いけど、ちょっとおかしいんじゃないのアンタ?!!」
「ヘ、別に胸無しのお嬢ちゃんには興味は無ぇんだよ。俺が良い男だからって相手して貰えると思ったら大間違いだぜ」
何を言ってるんだという風に、鼻で笑う男。
「は?」
な、なんですって? そりゃそこに自信なんて持ってないけど、初対面でそこまで言われる筋合いはないってのよ!
頭に血が上った私は、目の前の勘違いナルシスト野郎に向かって――思いっきり平手を飛ばした。
―――パァンッッ!!!
自慢の力に物を言わせて、男の顔面を変形させながら吹き飛ばす。
空中でそのまま回転したあと地面と激突する男。
男はすぐさま立ち上がって抗議して来た。
「何しやがるこのアマ?!」
「何するはこっちのセリフよ!!! いきなり失礼にも程があるわっ! しかも人のことを胸が無いだのなんだの! ふざけんじゃ無いってのよっ!!!」




