第13話 窮地を助ける人
それからも私達はヴェノムスパイダーを狩っていった。
彼らと来たら巨体で中型犬ぐらいはあるけれど、結局のところ攻撃方法は毒液を出すぐらいしかない。
鋭い牙こそ持っているものの、確実に獲物を仕留めた時しか使わない……らしい。
毒液だってすぐに吐き出せるわけじゃないんだって。
生産する、溜める、狙う、の三拍子を踏まないと行えない。だから駆け出しの冒険者の獲物にされやすい。
というのがエルの談。流石、そこら辺は一応先輩って感じではあるわ。
……問題はどこまで当てに出来るかだけれど。
「これで五匹目ってね。こんなもんでいいだろ、相変わらず小遣い稼ぎにはちょうどいい相手だったぜ」
「結局、剣を使わなかったわね。アンタ本当に剣士なの? それとも単なるファッションでそんなのぶら下げてんの?」
「んなわけねぇだろ。俺ほどの腕を見せるにはコイツらじゃ雑魚すぎるんだよ。もし俺が剣を抜いたら坑道にいる蜘蛛共を皆殺しにしちまう」
「へぇ~……」
「な、なんだよその目は? 疑ってるな! 俺の華麗な剣技を見せるには勿体ないから敢えてだな!」
「はいはい。わかったから、信じて上げるから」
「まあまあ、お二人共落ち着いて。私もエレトレッダさんのかっこいいところ、見てみたい気はしますが。それはまた後程という事で」
今日あったばかりだっていうのに、この子ったら随分とエルのフォローがうまいわね。
きっと昔この手のタイプと縁があって、それで自然にそういう立ち回りが得意になった。ってところかしら。
勝手な憶測だけど、意外に大変な身の上かも。私もティターニをフォローしてあげなきゃね。
それに比べてエルってば、一々意地張ってお調子者なんだから。これで私より年上なのよねぇ。それでいて先輩。
ほんと、どこまで信じられたもんだか。
十分な写真を撮れた私達は、元来た道を引き返そうとしていた。
その時……。
「あん? まだいたのか、しつけぇな。ほれ、今なら見逃してやるからどっか行け」
入り組んだ道の脇から飛び出してきたヴェノムスパイダーの一体。
とはいえもう十分に狩った以上、やりすぎるとギルドに目をつけられる可能性もある。
それが分かってるからか、エルはしっしと腕を振って追い払おうとした。
だけど……。
「ん? 何か様子がおかしくは無いでしょうか? 心無しか色も違うような」
「う~ん、言われてみればそうとも言えるし。そうでもないとも言えるし」
ティターニの言う通り、確かに様子がおかしい。
どことなく生気がないような、それでいて今にも食って掛かりそうな……。
何か感じるものがあったんでしょうね、エルは落ちていた木の棒にライターで火を付けて投げつけた。
すると、当然のように燃え上がる毒蜘蛛。
普通ならこれで勝負は決まるはず、だったのだけど……。
「あ、あれ? なんかピンピンしているような。………………あ! コイツ、アンデッド化してやがる!!?」
「なんですって!? 嘘でしょう、なんだってこんな所で……!」
「不味いかもしれません。今の我々の装備では太刀打ちは難しいかと!」
(最悪、ボクが力を使うか? だけどあくまで最後の手段だ)
アンデッド化。
まれに、一部のモンスターの死体が再び動き始める現象。
特徴として見た目も薄い色をしているとのこと。
こうなると厄介だわ。どんなモンスターでもアンデッドになってしまえば弱点を突かない限り倒せない。
マズイわね……! 私達は今聖水の類も持ってきてない。
僧侶の力があれば別だけど、生憎私達にはそんなものは無い。
「一、二の三だ。三と言ったら思いっ切り走るぞ。こんなのいちいち相手なんかしてらんないぞ」
「わ、わかったわ。なんとか入口まで逃げ切って、そこで落ち合いましょう」
「よし。一、二のさ」
エルが、ん! と言い切ろうとした矢先のこと。
突然、ヴェノムスパイダーの体が光に包まれたかと思うと、そのまま光の粒となって消えていった。
「え? どゆこと?」
キョトンとした声を出すエルに、内心同意する。
この展開に私も、そして恐らくティターニもついて行けてない。
思わず顔を見合わせる三人。
「あれ? エレぴじゃーん。こんなとこで何やってんの?」
聞き覚えの無い、若い女性の場に合わない明るい声が聞こえてきた。
ここは坑道の中でも開けた場所で、ここを起点としていくつもの道に別れている。
そのうちの一つから声が聞こえてきたのだ。
ひょっこりと顔を見せてきたのは、やっぱり知らない女の子。
「あ! お前、なんでここにいるんだ?!」
と思ったら、エルが驚いた声を出した。え? 知り合い?
そこにいたのは聖職者の格好をしていながら、ギャルめいた口調に浅黒い肌を持った金髪の女性。
それと胸は無い……私と同じくらい。
無駄に悲しくなった。