征服者蛆虫
さあ、いざ!
ひとり寂しき晩節の
祭の夜ぞ、騒がしく!
天つ御国の御使いは
群れ成し、翼を携えて
覆絹でその身を飾り立て
涙をポロポロ零しつつ
腰掛け観ゆる劇場は
希望と絶望の物語
管弦楽は息も散り散り
天球の音楽を奏でたる
道化師は、
高き御主の身振りを真似て
低き地声で噤み呟き
あちらこちらを飛び回る……
斯様な者すらも右往左往の操り人形、
あちらこちらに舞台を回す
形なき巨影に振り回され、
大禿鷹の翼を羽撃かせ
姿なき悲哀を振り散らす!
此の雑多な舞台劇を
……嗚呼、確かに
忘れることはないだろう!
幻影を絶えず追えども
捕らえられぬ群集が、
宛ら円環を巡るが如く
自ずと同じ処に還り往く、
そして多くの狂乱と多くの罪悪と
魂からの恐怖がこの舞台の物語なのだ
しかし見よ、
真似事ばかりの群集の真っ只中を
押し入り這いずる者の姿を!
血塗れの赤き姿が
舞台で独り身を捩る!
死に逝く痛みの中で……身悶え!……蠢く!
道化師はその者の餌食となり
人の血で染まる、その蛆虫の牙を見て
御使い達は啜り泣く
消える、消える
……灯りが消える
……皆ども全て闇の中!
慄え強張る道化師に
舞台の緞帳が、
棺の覆布が、
嵐の如く降ろされる
天つ御国の御使いは
皆、青褪めて血の気なく、
立ち上がり、覆絹を脱ぎ捨て、言い放つ
此の舞台は悲劇、題して「人間」
主役の名は「征服者蛆虫」
原著:「The Conqueror Worm」(1843)
原著者:Edgar Alln Poe (1809-1849)
(E. A. Poeの著作権保護期間が満了していることをここに書き添えておきます。)
翻訳者:着地した鶏
底本:「The Works of Edgar Allan Poe: The Raven Edition」(Project Gutenberg) 所収「Poems of Method: The Conqueror Worm」
初訳公開:2024年9月21日
【訳註もといメモ】
ポーの短編「ライジーア(Ligeia)」にも登場する人間の生と死を謡った詩。
版によって第二パラグラフ最終行の「Invisible Woe!(不可視の悲惨さ)」が「Invisible Wo!(不可視のワォ!)」となっており、訳出揺れが認められるので注意。