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第2章:親友の秘密

橘 樹にとって、水無瀬 奈々は常に明るく元気で、悩みなど一切ないように見える存在だった。彼女の笑顔は、橘にとっても安心感を与えるものだったし、何でも気軽に話せる友人だった。だからこそ、奈々が抱えている“秘密”に気づくのは、かなり遅れてからだった。


ある日の放課後、橘はふと気づいた。最近、奈々の様子がおかしい。いつもは元気いっぱいの彼女が、授業中にぼんやりしていることが増え、笑顔がどこか無理をしているように感じられたのだ。最初は「疲れているのかな」と思っていたが、それだけでは説明がつかない違和感があった。


「奈々、最近どうかしたのか?」


放課後、教室で二人きりになったとき、橘はついに尋ねた。普段なら、彼女はからかい半分に「大丈夫だって、心配しすぎ!」と言って笑うところだろう。しかし、その日は違った。奈々は一瞬、目を伏せたかと思うと、すぐに微笑んでみせた。


「え? なんでもないよ。疲れてるだけ、たぶんね」


その笑顔はどこか無理があるように見えた。橘はすぐに問い詰めるべきかどうか迷ったが、無理に聞くことが奈々を困らせるのではないかという考えが頭をよぎった。彼女は、いつも人に心配をかけまいとする性格だ。それに甘えている自分がいることを、橘はこの時ようやく自覚した。


「ならいいけど、無理はするなよ」


橘はそれ以上深く追及せず、話題を変えたが、その違和感は胸の中に残り続けた。




その週末、橘はいつも通り自分の部屋で宿題をしていた。外では子どもたちの笑い声が聞こえ、穏やかな秋の午後だった。しかし、奈々の様子が頭から離れない。普段ならこんなことはすぐに忘れてしまうのだが、今は何かが違っていた。


「なんだか、引っかかる……」


彼はつぶやくように言った。何か、奈々が隠しているのではないかという不安が、橘の心にしこりのように残っている。そして、その不安が実際に現実のものになる瞬間が、すぐにやってきた。


突然、またあの感覚――頭の中に何かが流れ込んでくるような重圧感が押し寄せてきた。視界が揺れ、橘の意識は薄れていく。そして、気づけば、彼は見知らぬ部屋に立っていた。


「ここは……?」


目の前に広がるのは、古びたリビングルーム。家具は古く、壁紙は色褪せている。橘はその光景に見覚えがあった。奈々の家だ――幼い頃に一度だけ訪れたことがある、彼女の家のリビングだ。


そして、リビングのソファに座る奈々の姿が見えた。だが、彼女はあの元気な奈々ではなかった。背中を丸め、手を膝に置いたまま、どこか遠くを見つめている。彼女の表情には、深い疲れと悲しみが滲んでいた。


「奈々……?」


橘は声をかけようとしたが、やはり彼女には聞こえない。そうだ、これは“記憶”だ。橘は理解した。彼は今、奈々の記憶に入り込んでいる。


「なんで……どうしてこんなことに?」


戸惑う橘の前に、突然、別の人物が現れた。年配の男性――奈々の父親だ。彼は険しい顔で奈々を見下ろしていた。


「また学校で何かあったのか?」


冷たい声。橘はその声に違和感を覚えた。奈々の父親は昔、優しい人だという印象を持っていた。だが、目の前にいる彼は、まるで別人のようだった。


「……別に何も」


奈々の声は小さく、弱々しかった。彼女がこんなに弱気になる姿を見たのは初めてだった。いつも強く、明るく振る舞っていた奈々が、家ではこんなにも小さくなっていることに、橘はショックを受けた。


「学校に行かなくていいなんて言ってないぞ。そんなことばかりしてるから、成績も落ちてるんだ。どうするつもりなんだ」


父親の言葉は鋭く、冷たい。奈々は何も言い返さず、ただ俯いたままだった。橘はその場に立ち尽くし、どうすることもできなかった。


「俺には……何もできないのか?」


橘の胸に、無力感が広がった。奈々が家でこんな状況に置かれていたとは、夢にも思わなかった。彼女は学校であんなに明るく振る舞っていたのに、家では全く違う姿を見せていたのだ。


「大丈夫……」


その時、奈々が小さな声で呟いた。その言葉は、父親に向けられたものではなく、自分自身に言い聞かせるような響きだった。橘は、その言葉に深い悲しみを感じた。




次の瞬間、橘は現実に戻っていた。部屋の天井が視界に広がり、息を荒くしてベッドの上に座っている自分に気づく。


「……奈々……」


橘は強く拳を握りしめた。奈々が抱えている悩みは、彼が想像していた以上に深刻だった。それなのに、彼女は一切それを口に出さず、いつも笑顔で隠していた。橘は自分の無力さに腹が立った。こんなに近くにいたのに、何も気づかなかった。


「どうすればいい……」


橘は思い悩んだ。奈々に何を言えばいいのか、どうすれば彼女を助けられるのか――答えは出ない。だが、一つだけ確かなのは、これ以上彼女を放っておけないということだった。


翌日、学校に向かう途中、橘は決意を固めていた。奈々が笑顔で隠している痛みに、彼は真正面から向き合うべきだと。彼は、奈々を助けるために動き出す覚悟を決めたのだった。

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