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真那へ


 あたしはあんたと出会うまで、自分がどこにいるのかもわからずに、一人で荒野を彷徨ってた。


 どこかにたどり着けさえすれば、せめてこの足を休めて、身寄りのない地上を傍観できると過信してた。


 だけどあんたに出会って、全てがぶっ壊れた。


 まるで自分が今まで手にしてきたものが、安物に思えてしまうくらいにさ?



 なにかを気にして笑うことなんてできない。


 明日に期待するものなんて何もない。


 だからあたしはなにも持たずに、あんたに近寄った。


 まるで人間のように泣きじゃくるあんたの幼い顔には、夢がいっぱい詰まっていた。


 決してモノクロなんかじゃない、確かな「色」が、そこにはあった。



 空には星が降っていた。


 数えきれないほどの流れ星が、果てのない空の向こうへと流れていた。


 あの日、私は死のうと思っていた。


 私は罪を犯した。


 私が生まれた国では、いい奴も悪い奴もたくさんいた。


 まあ、それはこの地上でも変わらないけれど、私の生まれ故郷では、「死ぬ」ことこそが正義だった。



 なあ、真那。


 あんたは自分の運命を呪うかもしれない。


 いつか自分の正体を知った時、私のことを恨んで、殺してしまいたいと思うかもしれない。


 だけどね、これだけはわかって欲しいんだ。


 この世の中には、生まれちゃいけないものなんていないんだってこと。


 “間違い”なんて、どこにもないんだってこと。


 少なくとも、私はあんたと出会えて幸せだった。


 あんたの無邪気の笑顔が、朝の日差しのように輝いていたことを知っていた。


 あんたの手の先には、一本のクレヨンがあった。


 それが青でも、赤でも、黄色でもいい。


 難しい色なんかじゃない。


 それに弱々しくもない。


 あんたが手を動かせば、キャンバスには虹が走った。


 線は鮮やかに、輪郭はどこまでもふてぶてしく、白い布地を横断していった。


 あんたとなら、どこまでも行けると思った。


 あんたと見る景色の中に、あたしは夢を見てた。


 大きな大きな、山のてっぺんを。



 二人で明日どこに行くか、まだ決めていなかったね。


 二人で何を探そうか。


 何を手にしようか。


 手始めに海へでかけて、貝殻を拾い集めてもいい。


 街の交差点に立って、まだ見たこともない路地を、探し歩いてもいい。


 どこに行けるかは、歩いてみなくちゃわからない。


 だけどあんたと一緒なら、きっと道に迷っても、手を繋いで好きなところへ。


 今よりもずっと、——遠いところへ。



 2022.6.12

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