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デート中の再会

 夜会から数日が経過した。

 相変わらずヘレーナはアーレンシュトルプ侯爵家の王都の屋敷(タウンハウス)から出ずに生活している。

 この日、ヘレーナは書斎でアーレンシュトルプ侯爵領に関する本を読んで勉強していた。

 もちろん、ヘレーナの隣には当たり前のようにエリオットがおり、座っているヘレーナの腰を抱いている。エリオットは集中しているヘレーナの邪魔はしないが、時々そっと頭を撫でたり、ヘレーナのストロベリーブロンドの髪にキスを落としたりしていた。

 そして、ヘレーナが本を読み終わった頃。

「ねえ、ヘレーナ、三日後、時間あるかい?」

 エリオットは甘い表情でヘレーナを見つめている。

「三日後でございますか? はい、特にこれといった予定はございませんが」

 ヘレーナはきょとんとしていた。

「だったら、僕と出かけないかい? 最近オープンした、貴族達に人気のカフェがあるんだ。ヘレーナと一緒に行きたいなと思ってさ。それと、またオペラを見に行こう」

「まあ、嬉しいですわ。是非、よろしくお願いします」

 ヘレーナは嬉しそうにタンザナイトの目を細めた。

(三日後、エリオット様とお出かけ……)

 ヘレーナは少しワクワクしていた。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 そして迎えた三日後。

 ヘレーナはアーレンシュトルプ侯爵家の侍女に身なりを整えられ、エリオットの前にやって来た。

 ピンクを基調とした小花柄のAラインドレス、そしてストロベリーブロンドの髪は花束のようなシニョンになっている。

 その姿を見たエリオットは恍惚とした表情だ。

「ヘレーナ、とても可憐で綺麗だ。誰にも見せずに僕が独り占めしたいくらいだよ」

「ありがとうございます、エリオット様」

 ヘレーナは嬉しそうにタンザナイトの目を細め、頬をほんのり赤く染めていた。

「さあ、行こうか。僕だけのお姫様」

 エリオットはヘレーナの腰を抱き、そのまま馬車までエスコートするのであった。


 カフェに到着すると、二人は静かな個室に案内された。

 二人きりでの食事はエリオットと初めてオペラを見に行った日以来だったので、ヘレーナは少しドキドキしていた。

 サーモンのソテーをナイフで切って食べるエリオットの所作はまるで王族のように優雅だった。

(改めて、(わたくし)はこんなに素敵なお方の婚約者になったのね。エリオット様は少し過保護な面もあるけれど、きちんと(わたくし)を大切にしてくださっているわ)

 ヘレーナはサーモンのソテーを食べながら表情を綻ばせた。

(だけど……)

 ヘレーナは食事をする手が止まる。

((わたくし)はまだエリオット様に何もお返し出来ていないわ。(わたくし)がエリオット様に出来ることは何かあるかしら……? もちろん、アーレンシュトルプ侯爵家にとって利益のある行動をしたり、(わたくし)自らがエリオット様が立ち上げたアーレンシュトルプ商会の広告塔になれば良いと思うのだけど、そういうのではなくて……)

「ヘレーナ、どうかしたのかい?」

 エリオットが心配そうにヘレーナを見つめている。

 色々と考えていたヘレーナだが、エリオットの声にハッとする。

「いえ、その……少しぼんやりとしておりましたわ」

 ヘレーナは困ったように微笑んだ。

「もしかして、疲れたとか?」

「いえ、そういうわけではございませんわ」

 ヘレーナは穏やかに微笑み、サーモンのソテーを一口食べた。

 その後、エリオットと色々と話をしながら食事を楽しむヘレーナであった。


 そして食後にはデザートのクラウドベリーのタルトと紅茶が運ばれて来た。

「まあ、美味しそうですわ」

 ヘレーナはタンザナイトの目を輝かせて表情を綻ばせる。

「そうだね」

 エリオットはヘレーナの表情を見て嬉しそうにムーンストーンの目を細めた。

 エリオットにはブルーベリーとクリームチーズのタルトが運ばれて来る。

 二人はデザートに舌鼓を打っていた。

 クラウドベリーの軽やかな甘さとさっぱりして食べやすいクリーム、そしてサクサクとしたタルト生地。ヘレーナは満足そうに表情を綻ばせる。

「ヘレーナ、もしよければ僕のタルトも食べてみるかい?」

 エリオットは優しげな表情だ。

「では、一口いただきたいです」

 ヘレーナがそう答えると、エリオットは当然のように一口分のブルーベリーとクリームチーズのタルトをヘレーナの口へ持っていく。

「さあ、どうぞ。口を開けて、ヘレーナ」

 甘く微笑むエリオット。

「あの……お店の方に見られるかもしれませんわ」

 ヘレーナの頬が赤く染まる。

「今は僕達以外誰もいないよ。それにここは個室だ。デザートも運ばれて来たし、後は僕達が呼ばない限り店員は来ない。二人きりだよ」

 エリオットは悪戯っぽく微笑む。

 ヘレーナは諦めてエリオットに食べさせてもらうことにした。

 本来は爽やかな甘味のはずではあるが、ヘレーナの口の中にはとびきり濃い甘さが広がった気がした。

「ヘレーナ、美味しい?」

 ムーンストーンの目は甘くとろけるような視線でヘレーナを捕らえている。

「……はい。美味しいです」

 ヘレーナは頬を真っ赤に染めたまま頷いた。

「良かった。じゃあ今度はヘレーナのクラウドベリータルトを僕に食べさせてよ」

 甘い表情でそう頼むエリオット。

「え……?」

 エリオットからのお願いに、ヘレーナは思考停止する。

「駄目かな? ヘレーナにも食べさせて欲しいな」

 甘く切なげな表情のエリオット。

「……分かりましたわ」

 ヘレーナはゆっくりタルトを一口サイズに切り、エリオットの口元に運ぶ。

 その手は少し震えていた。

 すると、エリオットはヘレーナの手をそっと掴み、クラウドベリータルトを食べる。

「うん、甘くて美味しいね」

 エリオットは満足げに表情を綻ばせていた。

(エリオット様……その表情は狡いわ)

 ヘレーナはドキドキしっぱなしであった。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 オペラが始まるまでまだ時間があるので、ヘレーナはエリオットにエスコートされてのんびりと王都中心部を歩いていた。

 王都中心には何と比較的広い庭園もあるのだ。

 季節の花が植えられており、貴族や平民問わず全ての国民に開放されている。

 ヘレーナは色とりどりの花に心をときめかせていた。

「ルピナス、デイジー、ブルーベル……夏場しか見られない花だね」

「ええ。セドウェン王国の短い夏に精一杯咲き誇る花々、儚さと強さがありますわ」

 花を見ながらふふっと笑うヘレーナ。

「そうだね」

 エリオットはそっとヘレーナの耳横のストロベリーブロンドの後れ毛にキスをした。

「エリオット様……少しくすぐったいです」

 エリオットの吐息がかかり、ヘレーナはほんのりとタンザナイトの目を潤ませた。

「可愛いよ、ヘレーナ」

 エリオットは満足げにムーンストーンの目を細め、ヘレーナを抱きしめる。

「エリオット様、外では恥ずかしいですわ。他の方も見ております」

「僕達の仲を見せつけてやればいいさ」

 恥ずかしげなヘレーナに対し、フッと笑うエリオットだ。

「エリオット様……」

 困ったように微笑むヘレーナ。

 その時、ヘレーナはあるものに目を止める。

 公園内の花売りである。

 花売りは美しい花を花冠にして売っていた。

 エリオットはヘレーナの視線の先に気付き、クスッと笑う。

「ヘレーナ、待ってて」

 エリオットは花売りの元へ向かった。

 少しの間、一人になったヘレーナ。

 その時、公園の柵越しにヘレーナにとって見覚えのある人物が見えた。栗毛色の髪にアンバーの目の男ーーヘレーナの元婚約者スヴァンテである。随分と見窄らしい服装だ。

「あ……スヴァンテ様……」

 思わずポツリと呟いてしまったヘレーナ。

 その呟きはスヴァンテにも聞こえたようだ。

「お前、まさかヘレーナ……いや、ローゼン伯爵令嬢……!」

 アンバーの目を大きく見開くスヴァンテ。

「違う! これは違うぞ! あ、いや、違います! 不可抗力で、決してローゼン伯爵令嬢に接触を図ったわけじゃありません!」

 青ざめて必死な様子のスヴァンテ。かつてヘレーナを見下して邪険にしていた頃とは大違いだ。

「あの、一体どういうことでしょうか?」

 スヴァンテの様子など、分からないことだらけのヘレーナはきょとんとしている。

 その時、ヘレーナの背後からいつも聞いているはずなのにまるで聞いたことのないような、低く冷たい声が聞こえる。

「僕のヘレーナに何をしている?」

 エリオットだ。ムーンストーンの目は絶対零度よりも冷たく、スヴァンテを睨んでいる。

 スヴァンテは絶望したような表情になった。

「エリオット様……?」

 いつもとは違うエリオットの雰囲気にビクリと肩を震わせるヘレーナ。

「ヘレーナ、こんな奴の言葉なんか聞く必要ないよ」

 ヘレーナに対してはいつもの優しげな声のエリオットである。

 ヘレーナはエリオットから耳栓をつけられ、抱きしめられて視界を塞がれた。


 全ての音が遮断され、ただエリオットの温もりと心音だけを感じるヘレーナ。

 ヘレーナは安心してエリオットに身を委ねた。

 先程のスヴァンテに対して見せた冷たく恐ろしい様子が嘘のように感じていた。


 しばらくすると、ヘレーナは耳栓を外された。

「エリオット様?」

 ゆっくりとエリオットを見上げるヘレーナ。

 優しい表情がそこにあった。

「ヘレーナ、もう大丈夫だよ。あいつはもういないから」

 あいつとは、もちろんスヴァンテのこと。

 彼の姿はもうなかった。

「あいつに何か嫌なことはされなかったかい?」

 心配そうな表情のエリオットだ。

「いえ、特にはありませんわ」

 ヘレーナはエリオットを安心させようと穏やかに微笑んだ。

「それにしても、スヴァンテ様は何故(なぜ)あんなに怯えていたのでしょうか?」

 先程のスヴァンテの態度を思い出し、不思議そうに首を傾げるヘレーナ。

「さあ? どうしてだろうね? でも嫉妬しちゃうな。ヘレーナが僕以外の男のことを考えるなんて。ヘレーナは僕だけを見てよ」

 少し拗ねたような表情のエリオットだ。

「大丈夫ですわ、エリオット様。(わたくし)にはエリオット様だけですもの」

 ヘレーナはふふっと微笑んだ。

 するとエリオットはヘレーナの額にキスをする。

「もう、エリオット様ったら」

 ヘレーナはほんのり頬を赤く染めた。

「ヘレーナにそう言ってもらえて嬉しかったんだよ」

 エリオットはムーンストーンの目をキラキラと輝かせていた。

 そしてヘレーナの頭に花売りから買った花冠を乗せる。

「はい、ヘレーナにプレゼント。よく似合うよ。花の妖精みたいだ」

 エリオットは花冠を乗せたヘレーナの姿を見て満足そうに微笑む。

「ありがとうございます、エリオット様」

 ヘレーナは照れたように微笑んでいた。


 先程の元婚約者の様子などすっかり忘れ、ヘレーナはエリオットと共にオペラを見に行くのであった。


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