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エピローグ(2)

「ああ、いや、悪かった、悪かったって」


 ひーひーと謎の呼吸音まで聞かせながら、リオは(てのひら)をジェインの前に出して口だけ謝った。


「落ち着け。剣はしまえ」


 話し方も雰囲気も、可愛らしい声で礼を伝えたあの時の少年と同一人物とは到底思えない。


「ふん、金にならないものは斬らないさ。私のポリシーに反する」


 最初から斬る気はなかったのだろう。抜き切ることなくカティアの剣身は鞘に委ねられた。


「さすが、ぶれないな」


『え、なんなのよ、この状況。そもそもこの子……』


 カティアの困惑には当然誰も答えない。


「だからあのとき、皆と共に手を貸さなかったのか」


 あのときとは、ハルピュイアとの一戦後を指しているとみて間違いないだろう。


 ジェインは何故分かりきったことを聞くのかと言わんばかりに、片方の眉を器用に上げた。


「どうせ死なないんだ。茶番を手伝うわけがない」


「いや、そこは手伝っておけ。いたいけな美少年の死に際になにも手を貸さぬとは、おまえこそ人間じゃないな」


 ピクリとジェインの指が微かに動く。


「おまえを象るその器は、()()()()()()()()


「……人だからな。当たり前だ」


()()()()()()()()()()()()


 二人を包む空気が、ジェインを中心に急に冷える。リオは焚火に薪を投げ入れた。


「勘違いするな。敵になるつもりはない。後々何が不都合になるか分からない、という話だ」


 投げ入れられた薪を、炎がその触手で舐めまわしていく。


『まあこの子の言っていることに、間違いはないわね。あんたはもっと慎重になるべきよ』


「それで何? こんなところまで追いかけてきて」


 カティアの台詞は今回も無視をして、ジェインはリオと話を続けた。


「ああ、その前に、おじさんは……その、どうした?」


 驚いたことに、目の前の魔物は魔物の心配をしているようだ。青い瞳が炎を映して落陽の色に揺れる。


「ゴーシュ? ……私はこの世から魔物を殲滅(せんめつ)したいわけじゃないよ」


 ジェインはそっと視線を焚火に戻した。


『そうよ、そうよ。そうなったら商売あがったりよ』


「……そうか。身内が二人とも世話になったな」


 ほっと息を吐きながら俯き加減に言った台詞は、柔らかいものだった。子供の姿をした妙な魔物を前に、今度はジェインが尋ねた。


「雑貨屋の姉さんはあんたのこと知っているのか」


「リュシェルさんか? いや、()()()()()()()()()()()


 リュシェルの銀の目は、シェイプシフターのみを判別できる。リュシェルが知らないのなら、目の前の少年はシェイプシフターではない、ということだ。


「まあ、あの目で判別できる類のではなさそうだしね、あんた」


 リオがふっと(かす)かに笑う。


「それで、アシュリーはどこに」


 さっきからちらちらと馬車に視線をやる少年の問いに、ジェインは焚火に木を突っ込みながら本人にも突っ込んだ。


「それ、今聞くんだ? 結構聞かれちゃ面倒な会話していた気がするけど。そもそも聞かずとも知っているんだろうが」


「確かめているだけだ。こんな夜更けだ。荷台でぐっすり寝ているだろうとは思っていたさ」


『うわ、面倒くさい』


「なら何故聞く? 大体本題はなんなんだ」


 カティアに同意したような短い感想をつけて、訊き返した。


「おまえはアシュリーをどこへ連れていこうとしているんだ」


 ジェインの碧の目を捕まえる。青空のような瞳が、これが本題だと言わんばかりに。


「さあ、特にどことは。ただ、アシュリーが一緒だと賞金首がほいほいやってくるからね。暫く路銀には困らないなと思ってはいる」


 リオの白い顔が、更に青白さを(まと)った。すんと澄ました表情に、焦りが足されたようだ。


「おい、エサにはするなよ」


「え、やだよ。便利だもん」


「やめろ」


「やだって。これから今までの倍の路銀が必要になるんだ。使えるものは何でも使う」


 リオは整った唇から舌打ちの短い音をさせた。その不機嫌な顔のまま、どこから出したのか大人のこぶし大程の革袋を、ジェインに放って寄越した。


 炎を超えてその袋は、咄嗟に迎えるように出したジェインの左手に、すっぽりと収まった。


 袋越しの感触で、中にあるのが硬いものだと分かる。ジェインは紐を解いて中身を見ると、すぐに掌に幾つかざらりと転がした。


『魔核?』


 焚火の炎のゆらめきが、色とりどりの魔石に反射する。


「ずいぶんと貯め込んだもんだ」


「それをやるから、迎えに行くまでエサにはするな」


 指で袋を指しながら、リオは言った。


「さあて、どうしようかな。これはアシュリーの路銀だろ? お迎え、長くなりそうだし? もっと私にも得がないとねぇ。これだけじゃあ、約束はちょっと」


 ジェインの悪い微笑みに、刹那にリオはふっと声もなく笑った。


「確かにそうだな。ならこれならどうだ」


 リオは一呼吸置いて続けた。


「おまえ、捜しているヤツがいるだろう」


 ぴたり、とジェインの動きが悪い笑顔のまま止まる。


「蒼い目の」


 二人の間の空間が、文字通りピシリと音を立てて凍る。


「だから、いちいちそういうのやめろ。それとももうキャンプファイヤーは終わりか」


 無意識に出すジェインの殺気にも軽口で返すリオ。


「どうしてそれを?」

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