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第五十五話 守護隊と賞金稼ぎと雑貨屋と

 きっとこの場にジェインしかいなかったらそう言ったことだろう。


 カティアのユーモアセンスはまったくもって壊滅的で、多くが脱力するものばかり。ジェインだけに披露するギャグの低レベルっぷりには、あとで再々再々再度、キッチリ苦情を入れておかなければならない。


 いや、さっきのはギャグではなく、単に性格が悪いだけだろうが。


「それで、逃がした元配達屋の行方は?」


 ジェインは漸く知りたかったことを尋ねることができた。ヤツの手がかりを早く手にしたかったが、物事には順番がある。


「ヤツは私に見抜かれたことに驚いて、灯り取りの小さな窓を破って飛び出してったよ。そこから私は出られないし、ドアは逆方向で、すぐに追いかけられなくてそれきりだ。更には街が青狼(ブルーウルフ)の襲撃中ときてちゃあね」


 結局、まんまと逃げられた、ということだ。


「街中でもかなり青狼の被害がでたようだからな」


 守護隊の二人が顔色を悪くするには十分だった。勿論、昨日から到底良い顔色とはいえないのだが。青狼の急襲を受けた現在は更にだ。


「そうそう、ヤツが破ったのはグラインの体にはあまりに小さな窓でね。あれはきっと全身至る所の骨を外したんだと思うよ。元通りにするには多少の時間が必要じゃないかね」


「目印は複数ヵ所骨折しているヤツ……か。グラインのままで他に渡らずにいてくれたら見つけやすいですけどね」 


 カーラントのそれは希望的観測すぎていた。リュシェルという目撃者がいるのだ。早々に容れ物を新しくすべきなのは分かり切っているだろう。幾ら未熟なシェイプシフターであったとしても、そう考えるはずだ。


「ここは時間との勝負だな」


 グレイはカーラントと、シェイプシフター追撃隊をどう編成するか話し出した。現在青狼襲撃の後始末で守護隊も街全体も騒然としたままだ。この中でどの程度隊士を割くことができるか、どの隊に任せるか、それにはどのくらいの時間がかかるか。


 これ以上の動揺と騒動を避けるために、シェイプシフターが街に侵入していることは住民には秘密にした上で動くべきだろうなど次々に決められていく。

 

 これからの動きを相談し合う二人を横目に、リュシェルがジェインに話を振った。


「昨日といい今日といい、驚くことばかりだよ。今までの(コルテナ)を考えると信じられない。一瞬、隣の国にでも攻め入られたのかと考えたくらいさ。本当に、コルテナに魔獣が現れたのなんていつぶりか……。姉さんはこの国が長らく魔獣の被害がなかったのを知っているのかい?」

 

 ジェインは頷いた。()()()()()()()()()()()()

 生業が賞金稼ぎだと知っているリュシェルが、その姿を見て苦笑する。


「そうさ、獲物がいなくて困っただろ? こっちも平和過ぎて魔獣の存在なんて忘れてる住人ばかりじゃないかね。アシュリーもそうだろうし。それが二日続けて襲われるっていうのがねぇ。昨日姉さんが仕留めた魔獣と今日の青狼、まさかヤツら、示し合わせて襲ってきたとか……」


「あー……」


『なに? やっぱりあんた、何か知ってることあるんでしょ?』


 言葉を濁すジェインの態度が、らしくないことを知っているカティアはすかさず疑問をぶつける。自分が知らないことがあるのが嫌だと言わんばかりに。 


「いや、それはちょっと難しいですよ。同じ犬型の魔獣でも、ヤツらは厳密には種族が違うじゃないですか。だから示し合わせてっていうのは」


 昨日の魔獣は三本の尾をもった大型の褐色狼(ブラウンウルフ)という魔獣で、大きさと単独だったことを考えると独立したばかりの文字通り一匹狼の可能性が高く、対して今日の青狼は褐色狼よりかなり小さめで、必ず群れで行動する種族だ。


 褐色狼と青狼の生態は、真逆といっていいほど違う。


「そうさね、私もかなりの国を回ったけど、あいつらが共闘するなんざ、聞いたことも見たこともないね」


 有りえないのは分かっていると、世界を回っていたという元冒険者も苦笑いしつつ答える。ただ、急に街が襲われた理由がどうしても分からないのだ。


「とにかく、今はこの後始末と並行してシェイプシフターを見つけ出すのが先だ。コルテナの守護レベルを最大に引き上げる」


「もちろん私も手伝うよ」


 リュシェルが申し出た。自分の人生を投げ出す覚悟をもった彼女の申し出を、断れるはずがない。その腕と目を貸してもらえるのは有難いと二つ返事でグレイは了承した。


 更にジェインにも視線を送る。


「ああ、報酬はずんでくれるんなら喜んで」


 頷く凄腕賞金稼ぎの仲間入りを、コルテナの住人たちは歓迎した。


────


「しっかりしろ! 目を離すな!」


 奥の森から出てきたのは青い狼だった。暫く周りを捜索して、もう何もないと引き上げの支度をさせていた途中で、森の奥から一頭の青い狼が姿を現した。


「こいつは……青狼か?」


 青狼であればこいつ一頭であるはずがない。


「気をつけろ、青狼なら群れだ」


 自らの言葉に、思わずごくりと喉を鳴らす。

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