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第十四話 少女と美食と後悔と(2)

八月から水・土に加えて、週に何度か更新します。

こちらは完全に不定期です。よろしくお願いします。

 公園の片隅のベンチに膝を抱えて座り、膝の間に頭を埋め込むようにした少女。相変わらずのぶかぶかの服に飲まれるように、こじんまりとして見える。


 公園に来たものの噂話を避けるため、周りに誰か来るたびに公園の奥へ奥へと移動して、今や隣にも後ろにも、ましてや前にも人はいない。


「そしたら見られるなんてことも」


 あんな失態は犯さなかった。意図せず何かを見られたのは初めてだった。酔うこともないはずの酒が回っていたのか? 慌てていて気配がないか念入りに調べなかったのは落ち度でしかないが。


「ははっ」


 少女は乾いた声で笑った。


 こんなの、気に病んでも仕方のないことじゃないか。全ては金がないのが悪いのだ。金がないから腹が空き、空きすぎて知能がどこかに旅に出るのだ。そうだ、そうだ。仕方なかったのだ。


「少しは前金渡されたけど、全額貰えるまで数日かかるんだよなぁ。お腹空いたしこの金でどこかでご飯食べて、今夜の宿でも探そっかな」


 先ほどの落ち込みようはどこへやら、ぴょんとベンチを飛び降りて、少女は青空に両手をぐっと突き上げ、背を伸ばした。それからばさりとフードを被り直す。


 人目を惹きそうな白金髪(プラチナ・ブロンド)を隠すのは念のため。ひたすらに目立たないように。その場に溶け込むように。心の声が聞こえてきそうである。


 最優先は空腹を続け、これ以上判断違いを繰り返さないこと。そのためには食事をする、次に今夜から暫く滞在する宿を探すこと。

 

 要約すると、美味しい食事付きの宿を見つけることがその二つを満たす最適解だといえた。


 そういえば。昨晩行った換金所の兄さんが、店主に続いて詫びてきたときに、査定と支払いにきっと暫く待たせるから良ければどうかと個人的なお勧めの滞在先を教えてくれた。


 そこは美味しいと評判の食事が朝晩付いていて、部屋も綺麗で居心地がいいのだと、何故か自慢気に彼は語った。看板娘が可愛くて、と照れながら言ったのはスルーしたが。自分に媚びてこないだけでいい奴だと思えた。だからそのメモを、店をかき集めて出来た報奨金の一部と共に受け取ったのだ。


「地図も描いてくれてたっけ」


 どこにやったかと、ごそごそと服をまさぐる。ズボンの右ポケットからかさりと音がしたので、手を突っ込んで引っ張り出した。

 

 くしゃくしゃになった紙。広げてみる。手のひらサイズの紙に描かれた地図はどうにも読み難く、何をどう見ればいいのかも分らない代物だった。自然に眉根が寄るが、右端に走り書きで宿の名前が書いてあるのを見つけた。こちらはどうにか読めそうでほっとする。


「えーっと、なになに……ア、シ……?」

 

 その宿は、“月花亭アシュリオ”といった。大通りに立ち並ぶ三階建ての建物。大きすぎない宿屋を前に、少女は掛かる看板を見上げるように立っていた。通りかかった流しの馬車にメモを見せて連れてきてもらったのだが、あの御者は何故あんな迷宮案内のような地図で分かったのだろうか。それとも虫の這った痕のような字で分かったのだろうか、どちらにしろ謎は残る。


「さて、ご飯が美味しいってのはさっきの御者も言ってたから、楽しみ楽しみ。良さそうならそのまま泊まっちゃうのもアリだな」


 うんうんと軽く頷き、少女は観音開きのドアを開けて中に入った。


「いらっしゃいませ」


 直後笑顔で店員が迎えてくれた。なかなか愛想がいいじゃないか、とつられて笑顔になる。店員は挨拶をしながら後ろを気にしているようだった。


 なんだ? 誰かいるのか? と、少女もちらりと肩越しに視線をやる。


「何名様ですか」


 昼前だというのに、店内は随分と賑わっているようだ。座れないほどではないようだったので、予定通り食事をしようと少女は人さし指を一本立てて店員に答えた。


「えっと、おひとりさま……ですか」


 こくりと首を縦にふる。インターバルなく肯定の返事をしたつもりだが、店員の反応がやけに鈍い。


「ひとり……誰かと一緒じゃないのかな」


 店員は急に膝を落とし、少女の目線に合わせてそう静かに問いかけた。


 ん?? ひとりじゃダメな店なのか?? 


 店内を見回してみるが、客層は老若男女、家族連れや勿論一人で来ている者もいるようだ。自分だけなぜ聞かれる?と不信に思った少女は、ふと自らの隣にあるガラスに気付いた。そこに映っていたのは当然自分だが……。


 うえ!! ナニコレ若過ぎだろ! 


 思わず無言のまま目を見開く。ガラスに映っていたのは十歳にも満たない可憐な少女だった。しまった、そうか、なるほどなと、店員の態度に合点がいった。


 いくら何でもこんな年端も行かない小娘が(しかも旅支度姿)、一人で食事にくるだろうか。近くに住んでいればそれもありかもしれないが、この街は昨日久方ぶりに魔獣に襲われたばかりだったな……なら、ありえんだろう。ん?……あの御者、よくここまで連れてきてくれたな……。


 たらりと嫌な汗にまみれそうになった時、また一人、別の店員がでてきた。

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